義父がいない時間に招かれる理由
義母はいつも、義父が仕事や趣味で外出している時間を選び、私たち一家を招いてくれました。少し不思議には感じていましたが、夫婦のことに踏み込むのはためらわれ、理由を尋ねたことはありません。
義母は普段から穏やかで、息子にも優しく柔らかな表情で接してくれます。その姿に、私も自然と笑顔になっていました。
偶然の帰宅が空気を変えた
その日は義父が珍しく早く帰宅しました。玄関のドアが開いた瞬間、義母の表情がわずかにこわばったのを私は見逃しませんでした。
食卓についていた息子は、スプーンをトントンと叩いて遊んでいました。
義父は軽く挨拶をした後、息子を見て
「お行儀ってもんがないな」
と一言。 私は冗談のつもりだろうと苦笑いで受け流そうとしましたが、義母の目は見る間に鋭さを帯びていきました。
抑えてきた感情の爆発
「まだ1歳よ。お行儀なんて求めるほうが無理でしょう!」
義母は強い声で言い返しました。義父も負けずに
「昔はそうやってしつけるもんだ」
と応戦します。2人のやりとりに、私と夫はただ視線を交わすばかり。食卓は一瞬で緊張感に包まれ、息子は不安そうな顔で私を見上げました。義母がここまで感情をあらわにするのを、私は初めて目にしたのです。
理由を知って選んだ距離感
帰宅後、夫に事情を尋ねると、義父が過去に繰り返した裏切りや散財のことを聞きました。義母は家族のために耐え続けてきたものの、心の傷は癒えていないそうです。そのため、ふとしたきっかけで感情があふれ出してしまうのだといいます。
私は夫と相談し、しばらく実家へ行くのは夫だけにし、義母とは我が家で会うことにしました。いつもの穏やかな義母でいてくれる時間を、子どもにも見せたいからです。穏やかな時間が、少しでも義母の心を軽くしてくれると信じています。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。