沈黙を破った夫の告白
ある晩、重い沈黙のなかで夫が背を向けたまま、つぶやきました。
「子どもの頃、よく怒鳴られてたんだ」
えっ?
突然の告白に、千恵さんは息を止めました。
「『お前なんか、ろくなもんじゃない』『何やってもダメな奴だ』って、毎日のように」
夫の声が震えていました。
「家にいると、いつ怒鳴られるかビクビクしてて」
「今でも、父さんの顔を見ると息が詰まる」
夫の肩が小刻みに震えています。
「だから……本当に無理なんだ」
その瞬間、千恵さんの胸がギュッと締めつけられました。
新たな介護への向き合い方
「ごめんなさい。知らなかった」
千恵さんがつぶやくと、夫は振り返って小さく笑いました。
「君がいてくれて、ほんとによかった」
その夜から、千恵さんは介護の在り方を見直し始めました。
夫婦でいろんな施設を見学し、最終的には専門施設に委ねることを決断。
義両親も「プロの方に任せた方が安心」と納得してくれました。
ただ「親だから」では計り知れない感情があること。その背景に目を向けることの大切さを、千恵さんは身をもって学んだのでした。
【体験者:50代・女性/会社員、回答時期 2024年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。