「跡取りは男の子」
待望の第一子である娘が生まれた直後のことでした。
お祝いに駆けつけた義母がかけた最初の言葉は、「女の子もかわいいけど、やっぱり跡取りは男の子よねぇ」というもの。
初産で心身ともに余裕がなかった私は、苦笑いするほかありませんでした。
まさかこの一言が、これから何年も続く「性別マウント」の始まりになるとは、その時は知る由もなかったのです。
「悪気はない」で受け流す日々
それからというもの、義母は会うたびに
「やっぱり男の子がいないと寂しいわよね」
「男の子だったら、パパのお仕事を継げたのにねぇ」
と、まるで娘の存在を否定するような言葉を繰り返しました。
夫に相談しても「母さんは昔からああだから」と苦笑いするだけ。
私も「きっと悪気はないんだ」「考え方が古いだけなんだから」と自分に言い聞かせ、波風を立てないようにと、笑顔をはり付け、受け流し続けました。
娘の心に刺さっていた小さなトゲ
決定的な出来事が起きたのは、娘が7歳になった七五三の日でした。
きれいな晴れ着姿の娘を見て、義母は「女の子は着飾るだけで終わりだから残念ね。男の子の羽織袴は立派なのにね」と言い放ったのです。
またいつものことだと苦笑いでごまかした帰り道、娘が私の顔をそっと見上げて、ポツリとこう言いました。
「私って、おばあちゃんにとって残念だったのかな……」
その言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けました。
笑って受け流すことが「守ること」ではない。私が曖昧に聞き流してきた言葉は、娘の心を深く傷つけていたんだと気付いたのです。
本当に守るべきものは
その夜、私と夫は真剣に話し合い、「もう娘の前で笑って聞き流すのはやめよう」と決めました。
夫も娘の言葉にショックを受けていたのか、黙って深くうなずいてくれました。
私たちが守るべきは、義母の機嫌ではなく、娘の健やかな心です。
それから私たちは義母と少し距離を置き、「あなたがいてくれて、本当に幸せだよ」と、意識して娘に伝えるようにしました。
大人の何気ない一言は、子どもの世界を作ることも壊すこともできる。そのことを、娘の言葉に教えられたのです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。