その過程には葛藤と、深い気づきがありました。
今回は筆者の知人から聞いた、親子の絆にまつわるエピソードをご紹介します。
父の夢と期待
「お前は絶対にピアニストになれる」
小学生の頃から、父は私にそう言い続けていました。
父は昔、音大へ進学することを目指していたそうですが、家の事情で夢を断念した過去があります。
その後結婚し、私が生まれてからというものの、父の夢を私に託していたのです。
最初は簡単な曲を弾くだけで、
「お前には才能がある!」
と喜んでくれる父の笑顔と期待が純粋に嬉しかったのですが……。
決心
中学を過ぎた頃から、父からの“絶対に音大に進学してプロのピアニストになれ”というプレッシャーと練習漬けの日々に息苦しさを感じるように。
本当はピアノとはまったく関係のない部活に入りたかったうえに、友達と過ごす時間ももっと欲しかった私。
でも、何度訴えても父は『時間の無駄』と取り合ってはくれなかったのです……。
高校に入り、同年代の子と比べるなかで『ピアニストの才能はない』と感じ、とうとう心が限界を迎えた私。
新たな夢もできたため、思いきってピアノをやめたいと父に伝えてみることに。
当然、父からは猛反対されました。
「裏切るのか!」
「酷い親不孝者だ!」
と怒鳴られ、親子関係はしばらく冷えきった状態が続きました。
自分の夢
それでも私は、勇気を出して自分のやりたい道である福祉関係の学校へ進学。
数年後、資格を取り児童施設で働き始めた頃、あまり話しかけてこようとしなかった父がこう言ったのです。
「最近すごくいい顔しているな」
「自分の人生をちゃんと切り開いていて幸せそうだ」
そのとき、父は自分の夢を託すことで、私にとにかく“幸せになってほしかった”のだと初めて理解できました。
そして私もまた、自分の人生を選び取ったことで、父の気持ちを受け止める心の余裕が生まれていたのです。
親子の仲
そんな父は数十年ぶりにピアノ教室に通うことに。
「好きなことに打ち込むには、年齢なんて関係ないよな」
と照れつつも、迫る発表会に向けて楽しそうにピアノを弾く父。
今はお互いを尊重し合える関係になっています。
夢は一方的に押しつけられて引き継ぐものじゃなく、応援し合うもの。
そう気づけたことで、私たち親子は新しい一歩を踏み出せたと思っています。
これからは、父の新しい挑戦を心から応援したいと思います。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にltnでヒアリングと執筆を行う。