乗った瞬間に感じた、ピリついた空気
その日、私は生後6か月の娘の小児科の受診を終え、娘をベビーカーに乗せて、電車に乗りました。
空いている時間帯を狙ったつもりが、思った以上に車内は混雑しており、私はそっと優先スペースに滑り込みました。
しかし、その日は乗った瞬間に、誰かの舌打ちが聞こえ、続けて「この時間にベビーカーとか、空気読めよ」といった声が聞こえたのです。
初めての経験に私はうつむき、娘の寝顔を見つめながら、どうにかやり過ごそうと必死でした。
ぶつけられる無言の圧力
電車が揺れ、ベビーカーが少し動くたび、「すみません」と何度も小さく頭を下げました。
すると先ほどの声の主と思われる乗客が、あからさまにため息をついてこちらを睨んできたのです。
「あと2駅だから、このまま謝りながらやりすごそう……」と心の中で繰り返しながら、私はひたすらその視線に耐えました。
降り際、女性客がかけてくれた言葉
ようやく目的の駅に着き、ベビーカーを押して降りようとしたそのとき。後ろから、スーツ姿の年配女性が声をかけてきました。
「お母さん、堂々としてていいのよ。赤ちゃんは社会の宝なんだから。」
そのひと言にほっとして、思わず私は涙が出そうになってしまいました。
そのまま急いで外に出て車内に目をやった時、私を睨んでいた乗客が目をそらすのが見えました。
次に、電車の扉が閉まる直前、私をかばってくれた女性と目が合い、彼女の微笑んでうなずいてくれた姿が今も忘れられません。
救われたのは、その時だけじゃなかった
ベビーカーの電車移動で、あの日ほど厳しい経験をしたことは、その後あまりありません。
しかし、あの時の私の心細さを優しく包んでくれた女性の言葉には今も心が救われています。
あの優しさにしっかりと応えられるよう、現在は周囲への配慮やマナーに一層気を付けるようになりました。
そして今では、困っていそうなママさんがいたら、私もそっと声をかけるようにしています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。