ペットをまるで自分の子どものように大事にしている飼い主は少なくありません。家族の一員として見るのは不思議ではありませんが、時にはTPOを考えなければならないこともあります。今回はペットを大事にする親族との間で、結婚式という大切な日を迎えるにあたって価値観のすれ違いを経験した筆者の知人、Aさんのお話です。

結婚式を控えて

Aさんは当時、旦那さんとの結婚式を控えていました。
「結婚式楽しみだね」
「いい式にしような」

すでに一緒に暮らしていた2人は結婚式が素晴らしいものになることを期待してワクワクしていました。
「〇〇ちゃんと△△ちゃんは振袖で来てくれるらしいから、着付けの予約をしないとね」
結婚式に参列してくれるAさんの友人には独身女性も多く、「こんな時じゃないと着られないから」と振袖を準備している人もいます。
「華やかな式になりそうね」
結婚式は女性にとってとても大切な日。Aさんは結婚式の日を指折り数えて待ち焦がれました。

結婚式を2週間後に控えたある日、Aさんはお姑さんに「大事な話がある」と義実家に呼び出されました。

大事な話とは……

「一体なんの話なんだろ……」
一体なんの話なのか、まさか今更結婚に反対などされないだろうかと、Aさんと旦那さんは不安に思いながら義実家へ。

すると義実家で待ち構えていた義両親と旦那さんの妹、つまりAさんにとっては義妹の口から出たのは意外な言葉でした。

「お兄ちゃんの結婚式に、この子も参列させて欲しいの! 私たちの家族だからいいでしょ!」
そう言って義妹はペットのポメラニアンを抱き上げました。

「えっ!?」

Aさんと旦那さんはビックリしましたが、義妹はいたって真剣な様子。

「この子も一緒じゃなきゃ私行かないから!」

愛犬も家族だからお兄ちゃんの晴れ姿を見せたい、義妹はそう言って聞きません。確かに義実家はみな犬好きで、愛犬をとてもかわいがっています。義妹さんの愛犬を家族同然に思う気持ちは理解できます。大切な家族の一員である愛犬にも晴れの姿を見せたいという純粋な思いがあったのでしょう。

ペット同伴が可能な結婚式場はあるものの、Aさんたちの結婚式場は認められていません。しかも、今は結婚式の2週間前。突然式場を変更するなんて、Aさんたちは考えられませんでした。

「残念だけど、私たちの結婚式場はペットの同伴はできないの」
「そこをなんとか説得してよ!」
義妹はなんとか愛犬を参列させようと強く主張しました。

しかし、結婚式という特別な場では、様々な考えを持つ方が集まるため、TPOを考慮する必要がありました。犬が苦手な方もいますし、高価な振袖で参列してくれる友達もいます。
また、どんなにしつけが行き届いている犬であっても、沢山の人がいる環境では吠えたり粗相をして着物を汚したりという不測の事態が起こるかもしれません。

そこから何時間も義両親と旦那さん、Aさんは義妹を説得し、やっと義妹が納得してくれた時にはすでに日付が変わっていたといいます。

もちろん当日は犬をペットホテルに預けて義妹も参列してくれましたが、終始納得のいかない表情を浮かべていました。

ペットを家族同然に愛する気持ちは深く理解できる一方で、結婚式という特別な場においては、すべてを叶えるのが難しい現実があります。今回の経験を通して、それぞれの価値観を尊重しながらも、大切なイベントを円滑に進めるためのコミュニケーションの難しさを痛感しました。

【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2025年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。