見られてたのか……
「子どもがいなくても、一緒にいるだけで幸せだよ」
そう言ってくれていたのに。
裏切られた気がして、栄子さんは帰宅後すぐに夫を問い詰めました。
夫は少し黙ったあと、話し始めました。
「この前さ、オレ、お通夜行っただろ。大学時代の先輩でね。急に亡くなっちゃって」
「奥さんと息子が残されてて。何もできないけど、せめて練習くらいは応援したいと思ってね」
そして、小さな声でこう続けました。
「見られてたのか……。栄ちゃんに心配かけてたなんて、本当にごめん」
ふたりにしかない“家族の形”
夫は言いました。
「今日で最後にする。俺の出る幕じゃないから」
栄子さんは、改めて夫の優しさに胸がじんとしました。
そして
「じゃあ今度は私も誘ってよ。一緒に、ウォーキングがてら、応援に行こうよ」
と笑って返しました。
夫は少し驚いたように笑い、うなずいていました。
ふたりにしかできない関わり方が、きっとある。
家族って一緒に歩ける時間があるだけで、幸せなんだと思えた瞬間でした。
【体験者:30代・女性・イラストレーター、回答時期:2024年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。