出張先の喫茶店で
Mさんは当時外回りの多い営業の仕事をしており、その日は県外の得意先に行くための出張中でした。
「どこでご飯食べようかな……」
商店街の中に小さな喫茶店があったので、Mさんは約束の時間までそこで昼食をとることにしました。
「サンドウィッチとコーヒーください」
注文をして待っていると、店の奥から「お腹空いたよー」と騒ぐ子どもの声がしました。
「このお店の子かな」
どうやらこの店は夫婦で経営しており、夏休み中だからか子どもをお店に連れてきているようでした。
店内を見渡すと、誰も座っていないカウンター席の隅っこに夏休みの宿題らしきテキストが開いたまま放置されています。
「お待たせしました」
サンドウィッチが運ばれてきたので、Mさんが手をつけようとした時でした。
「お腹空いたよー!」
店の奥から先ほどの声の主である子どもが現れ、店の中をウロウロと歩き出しました。
子どもがまさかの行動に
店主が奥から子どもに「ご飯作ってあげるからおとなしく待ってて」と言っても座ろうとしません。
店内にはMさんしか客がいないものの、店主は出前で注文された食事を作るのにバタバタしている様子。
そして子どもはトコトコとMさんの席までやってきました。
「お腹空いた! それちょうだい」
そう言っておもむろにMさんが食べていたサンドウィッチに手を出し、パクパクとすごい勢いで口に詰め込みました。
「え……」
驚いて固まっているMさんに、店主は「もう、何やってんの! すみません!」
と言うだけで作り直してはくれません。
呆れたMさんが店を出ようと会計の伝票を持って行くと、半分も食べていないサンドウィッチの料金を全額請求されました。
店を出たあとでMさんがその店の口コミを見ると、「子どもが食べ物に手を出してくる」という口コミが多く、Mさんはまたこの町に出張に来たとしても、この店にはもう行くことはないだろうと思ったそうです。
子どもの無邪気な行動に悪気はなかったのかもしれません。けれど、美味しい食事を心待ちにしていた分、非常に残念な気持ちになりました。この経験から、どんなお店でも入る前に口コミをチェックする習慣をつけようとMさんは心に決めたそうです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。