若い頃から苦労をたくさんしてきた
私の父方の祖母は、早くに夫を亡くし子ども6人を女手一つで育て上げたたくましい女性です。
晩年は一人暮らしでしたが、正月は子どもや孫が集まって賑やかに過ごすのが通例になっていました。
祖母は寡黙で自ら会話に参加してくることがなく、私は子どもながらに近づきがたい印象を持っていました。
宴会の最中、私の兄が祖母のところに行き、
「ばあちゃん、孫がたくさんいてよかったね。賑やかでいいだろ」
と笑顔で言いました。
衝撃の一言
すると祖母は、
「孫ね、孫なんて一度も可愛いと思ったことないわ」
ため息まじりに言いました。
え?
その場にいた孫は私を含めて5人、皆ポカンとしています。
すぐに伯父や伯母が祖母をたしなめ、この話題は流れましたが、これ以降なんだか気まずくなり、私や兄は祖母の家に行くのをやめました。
従兄弟たちも同様のようでした。
それから数年は没交渉でしたが、ある年の正月、祖母から孫を呼んでほしいとのたっての願いがあり、私は恐る恐る向かいました。
祖母からの告白
祖母は久しぶりに集まった孫たちに頭を下げ、あの時は悪かったと詫びてきました。
日々の生活が大変で心に余裕がなくなり、あんなことを言ってしまった。
孫たちがいない静かな正月がとても寂しいことに気づいた、とのこと。
その場にいた孫一同、祖母が若い頃から苦労してきたこと、優しい側面もあることを知っていたので、ぎこちないながらも仲直りをし、ここ数年のわだかまりは解けていきました。
働き者で寡黙な祖母。
そういえば私は祖母が作る玉子焼きが大好きでした。
【体験者:40代・女性筆者、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:田辺詩織
元医療事務、コールセンター勤務の経験を持つ在宅ワーカー。文学部出身で、文章の力で人々を励ましたいという思いからライターの道へ。自身の出産を機に、育児ブログを立ち上げ、その経験を生かして執筆活動を開始。義実家や夫、ママ友との関係、乳幼児期から中学受験まで多岐にわたる子育ての悩みに寄り添い、読者が前向きになれるような記事を届けている。