混雑した駅のホームで
Nさんは毎年夏になると、友人と音楽フェスに行くのを楽しみにしていました。
暑い中好きな音楽を聴いて大騒ぎして、美味しくお酒を飲んで帰るのが日々のストレス解消になっていたのです。
「しかし暑いね……」
「うん、今年の夏も暑すぎ」
フェスが終わった後、Nさんは友人と人でごったがえす駅までの道を歩いていました。
その日は特に暑い日で、Nさんも友人も水で濡らすと冷たくなるタオルを首に巻いてなんとかしのいでいました。
「駅も混んでるね」
やっと駅に着いたものの、ホームにもフェス帰りの人があふれています。
後から後から人が来るので、並んでいても後ろから押されて、前に並んでいる友人の背中にくっついてしまいそうなほどの混雑ぶりでした。
「痛っ!」
電車を待っていたNさんは、いきなり髪を後ろから引っ張られて悲鳴を上げました。
髪を引っ張ったのは誰?
「何するんですか!」
髪を引っ張られたまま無理矢理振り向き、後ろの人を見たNさん。しかしNさんの髪を引っ張った犯人は、意外なものだったのです。
「す、すみません!」
後ろにいた女性が、手に持っているハンディファンのスイッチを慌てて切りました。Nさんの髪の先が、そのハンディファンの羽根にしっかりと絡みついており、これに引っ張られたのだとすぐにわかりました。
その女性は片手にハンディファンを持ったままスマホに夢中になっており、Nさんに近づきすぎたためにファンに髪が巻き込まれてしまったようでした。
「急いで取ってくれませんか」
もうすぐ電車が来るのでNさんがそう言ったものの、髪はしっかり巻き込まれていて全く取れそうにありません。
「これ、切るしかないね」
近くにいた友人がたまたま持っていた眉用の小さいハサミで髪を切ってくれ、なんとかNさんは解放されました。
しかし毛先とは言えせっかく伸ばしていた髪の毛を切ることになってしまいました。
人が密着するほどの人ごみでハンディファンを使うのは危険だと改めて気づいたそうです。
歩きスマホの危険性は以前からよく言われていますが、立ち止まっていてもスマホを見ながらのハンディファンはかなり危険ですね。近年、夏の暑さ対策として広く利用されているグッズですが、使用する際は周囲への配慮を忘れず、安全に利用しましょう。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。