夏休みに実家へ帰省した筆者の友人・若菜さん(仮名)が玄関で出会ったのは、まさかの“元夫”。無断で招いた母の思惑と、思いがけない展開に気持ちはかき乱され……。これは、シングルマザーになった若菜さんが体験した、ある夏の日の話です。

実家の玄関を開けたら、そこにいたのは

小学3年の娘を連れて、久しぶりに実家へ帰省した若菜さん。夏の陽ざしを背に玄関を開けたその瞬間、思わず足が止まりました。
そこに立っていたのは、離婚した元夫だったのです。

「えっ、なんでアンタがここに!?」
玄関で顔を合わせた若菜さんの声に、母が奥から出てきて笑いました。
「だって、子どもにはお父さんも必要でしょ?」

どうして、私に何も言わなかったの?
心の中に緊張と怒りの波が立つのを感じながら、若菜さんは唖然としました。

父親として、娘の反応

リビングでは、元夫が自然な口調で娘に話しかけていました。
最初はぎこちない様子だった娘も、ゲームの話題になると、少しずつ表情がゆるんでいきます。

台所では、母が「久しぶりに会えてよかったわね」と満足そうに言いました。
若菜さんは、その空気を壊すこともできず、複雑な思いを抱えながら黙ってその場に立ち尽くしていました。

帰る朝、元夫は新品のゲームソフトを娘に手渡しました。
驚いたように受け取った娘は、ぽつんとつぶやきます。
「……なんか、うれしいかも」

笑顔とためらいが混じるそのひと言に、若菜さんの胸がまた静かにざわめいたのです。
親子3人が並んだ玄関先には、なんとも言えない複雑な空気が流れていました。

請求LINE

帰省から数日後。
スマホに届いた元夫からのLINEを見て、ギョッとした。

「交通費とゲーム代、出してくれない?」

一瞬、言葉が出なかった。
あのとき、娘と笑い合っていた姿に、少し見直しかけていた。
新品のゲームソフトを差し出す姿に、“父親らしさ”なんて言葉が頭をよぎったのに。

まさか、それが“請求付き”だったなんて。

やっぱり、この男なにも変わっていなかった。

“父親が必要”という親心

思いがけない再会に、心が揺れたのは事実です。
「娘のためには、父親がいたほうがいいのかもしれない」
そんな思いが、ほんの一瞬、胸をよぎりました。

けれど現実は、変わらないあの人でした。
見直しかけた気持ちが、あっさりと冷めていくのを感じたのです。

母もきっと、悪気があったわけではありません。
孫を思ってのことだと、頭では理解できていました。

それでも若菜さんにとっては、ありがた迷惑な親心。
気持ちをかき乱された、夏の帰省となりました。

【体験者:40代・女性、回答時期:2024年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。