不意に届いた言葉
翌朝、子どもを送り出した後、私は台所で立ち尽くし、深いため息をついていました。
すると、背後から夫の声が聞こえたのです。
「昨日の晩、言い過ぎたと思ってる。俺、A子が毎日どれだけ頑張ってるか、ちゃんと見てる。ありがとう」
私は驚いて振り返ることもできず、その場に立ち尽くしました。
「見ていたなら、どうして何も言わなかったの?」
そう問いただしたくなる気持ちと同時に、涙が止まらなくなりました。
後から夫がぽつりと打ち明けてくれたのは、こんな理由でした。
「何をすれば正解かわからなかったんだよ。手伝っても怒られることもあったし、自分が中途半端に口を出すと余計に負担になるんじゃないかって。何も言わない方が、君のペースを乱さないと思ってた」
夫は夫なりに、私が完璧主義な性格だと感じていたようで、手伝おうとするとかえって手間を増やしてしまうのではないか、と及び腰になっていたようです。実際、以前手伝ってくれたとき、「もっとこうしてほしい」と伝えたことが、夫にとっては「怒られた」と感じてしまうこともあったのかもしれません。
夫なりに気を遣っていたつもりだったこと。
でも、それが結果的に私を孤独にさせていたこと。
ようやく、私たちはすれ違いの根っこにあったものを言葉にできた気がしました。
少しずつ変わっていく関係
その日を境に、夫はゴミ出しや子どもの話を聞くようになり、少しずつ行動に変化が現れました。
私も、思ったことを言葉にするよう心がけるようになりました。
「言わなくてもわかる」ではなく、お互いに言葉にして伝え合うことの大切さを改めて実感しました。
あの朝の一言が、私たち夫婦の関係を少しずつ変えてくれた気がしています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。