ブランドマウントに囲まれて
その日、私はある知人の紹介でランチ会に参加しました。
10人ほどのマダムたちが集まり、店は都心の高級フレンチ。
最初は当たり障りない話題でしたが、やがて空気が変わってきました。
「やっぱり〇〇のバッグじゃないとね。庶民ブランドって持ってても恥ずかしいわよね〜」
そんな言葉が何度も飛び交い、私は笑ってごまかすしかありませんでした。
みんなのバッグが何十万もするブランド品ばかりの中、私のシンプルなトートバッグが、まるで“異物”のように見られていました。
見下し発言が、私に向いた瞬間
「あらE子さん、そのバッグどちらの? 見たことないブランドね。もしかして……ノーブランド?」
言ったのはグループの中心にいるF子さん。周りのマダムたちがクスクス笑いながらこちらを見てきました。
一瞬、顔が熱くなりました。でも、不思議と怒りや恥ずかしさよりも、ふと冷静な気持ちになったのです。
「このバッグですか? 実は……」と切り返した
私は微笑んでこう答えました。
「母が使ってた古いバッグなんです。大事な人の形見なので、私にとっては一番のブランドです」
その瞬間、テーブルが静まり返りました。
F子さんは何も言い返せず、別の話題に切り替えました。
周囲の数人が「あ、素敵ね」と小さくつぶやいていたのが聞こえました。
本物は、値段じゃないと気づいた日
ランチ会のあと、ひとりのマダムがこっそり近づいてきて「さっきの話、私も心が動いたわ」と言ってくれました。
虚勢を張る人たちの中でも、ちゃんと届く人はいる。そう思えたことが、何よりうれしかったです。
あの日のバッグは、今も私のクローゼットにあります。
どんなブランドよりも価値のある、母の温もりが残るものとして。
もう誰に何を言われても、私は自分の“選ぶ価値”を信じていたいと思っています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。