「ちょっとお時間いいですか?」から始まる、終わらないクレーム電話。あまりに厳しい保護者対応に心が折れかけた保育士が、1年をどう乗り越えたのか? 友人が体験談を語ってくれました。

個性豊かな子どもたち、でも

保育士として働いて10年の私。

ある年、私はとあるクラスを受け持ちました。子どもたちは個性豊かでかわいさいっぱい。

でも、あまりにも細やかな指摘や要望をされる保護者が集まったクラスだったのです。

責められ続けた日々

「昨日うちの子が“おかわりできなかった”って言ってましたけど、どうしてですか?」
「先生に注意されて、保育園に行きたくないって言ってるんですけど!」
「お昼寝中に声をかけられて起きちゃったそうですね? ちゃんと寝かせてください!」

連絡帳には、毎日のように指摘や不満がびっしり。

電話では「ちょっとお時間いいですか?」から始まり、最終的には30分以上のクレームになることもザラ。

こちらは注意深く見守っていても、わずかな問題点すら見逃さないかのように“落ち度探し”をされているような気がしていました。

どんなに見守っていても

子ども同士のトラブルが起きたときも、

「喧嘩しないように見るのが保育士の仕事でしょう? うちの子、すごく傷ついてるんですけど」

……見ていなかったわけじゃない。でも、瞬時にすべてを止められるわけでもない。

電話が鳴るたび、「またか」と胸がざわつく毎日。帰り道は、自転車をこぎながら涙が止まらない日ばかりでした。

今ならわかる「先輩の言葉」

ある日先輩に相談すると、こう言われたのです。

「そのクラスね、去年はA先生も泣いてたの。貴重な保護者の意見とは言え、ちょっとないわよね」
「でも大丈夫、あのクラスを1年持ったなら、もうどんな保護者でも怖くないって思うから」

そのときは「なんて無責任な慰め方」と思った私。でも……。

乗り越えた先に見えたもの

翌年、別のクラスを受け持ってみて、私は気づいたのです。

「あれ? 去年だったら、この程度でもクレーム来てたな」
「普通に話が通じるって、なんてありがたいんだろう」

過去のクラスが厳しすぎた分、ちょっとの理不尽にはビクともしなくなっていたのです。

私は鍛えられ、保護者の方々とのコミュニケーションスキルが格段にレベルアップしていました。

今のクラスで、保護者から理不尽なクレームが来ても、「あのころと比べたらへっちゃら」と思えます。

あんな経験はもうしたくない。でも、あの1年間を乗り越えたからこそ、私は今もこの仕事を続けられていると思うのです。

【体験者:30代・保育士、回答時期:2025年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Yuki Unagi
フリーペーパーの編集として約10年活躍。出産を機に退職した後、子どもの手が離れたのをきっかけに、在宅webライターとして活動をスタート。自分自身の体験や友人知人へのインタビューを行い、大人の女性向けサイトを中心に、得意とする家族関係のコラムを執筆している。