あれから20年、娘を連れて実家に帰省した日、押し入れの奥から出てきた“あるもの”に胸が締めつけられることに──。
今回は筆者の知人から聞いた、親子の絆エピソードをご紹介します。
母に反発した中学時代
中学生の頃、母がセールで買ってきてくれた服に
「ダサい、こんなの着たくない」
と言い放ったことがあります。
当時、ブランド品を着ている友達が周りに何人もいて、思春期特有の、周りの目が過度に気になる時期だった私にとって、私服選びは大きなプレッシャーでした。
それだけに、セール品の服を着るのが恥ずかしくてなりませんでした。
私はその服をよく見もせずゴミ袋に押し込みましたが母は黙ってそれを拾い上げ、何も言わずに押し入れにしまったことを覚えています。
当時は思春期ということもあり、必要以上に強く反抗しては、悲しそうな表情を浮かべる母へどんな態度をとればいいか分からずにいました……。
見つけた服と母の想い
それから20年後、娘を連れて実家に帰省したとき、あの服をたまたま押し入れから見つけた私。
タグには“特売”と書かれていました。
そして畳まれた服の間に、母の字で『100点おめでとう』と書かれた小さなメモが挟まっているのを発見!
それを見て、この服を母が買ってくれた時期はちょうど試験後だったことを思い出したのです。
そして、これは当時良い成績を取った私へのプレゼントだったことに気が付きました。
当時の記憶を鮮明に思い出しては、酷い態度をとってしまったことを悔やみ、胸が締めつけられました。
実は後から知ったのですが、当時は家計がかなり苦しかった様子。
父の仕事が減り、母はパートのほかに内職を掛け持ちして生活を支えていたそう。
それでも娘を私立から公立に転校させず、自分の服を一着さえも買わず、娘にだけは『可愛い服を着せたい』と思ってくれていた母。
愛のプレゼント
「ダサい」
「いらない」
と一蹴されたとき、母はどんな想いだったのでしょう。
私はただ「セール品を着ると友達から馬鹿にされるんじゃないか」という小さな不安感から、逃げたかっただけでした。
でも今、自分が母になり同じように子どものために服を選ぶようになって、ようやく分かったことがあります。
それよりも大切なことは、母が買ってきてくれた服は、愛のこもったプレゼントだったということです。
忘れない
『あの日の言葉は、母の心に深く突き刺さったままだったに違いない』
そう思った私は素直に謝ると、母は
「そんなことあったかしら?」
と笑ってとぼけて許してくれました。
あのときの服は、今でも実家の押し入れにあります。
きっとこれが似合うだろうと思い買ってきてくれたこと、そして捨てられずにそれをとっておいた母の気持ちを、私は一生忘れません。
【体験者:30代・女性自営業、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にltnでヒアリングと執筆を行う。