筆者の話です。
実家のある島では、毎年夏が来る前に海岸の清掃を行います。
訪れる人のマナーにモヤモヤしながらも、私は黙々とゴミを拾い続けていました。
そんなある日、ふと聞こえてきた言葉に、思わず心がゆるんだのです──

また今年も、あの季節がやってきた

「ゴミくらい持ち帰ってよ」──毎年、海岸清掃をしながら、心の中でそう思っていた。

私の実家は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島。
夏になると、船で渡ってくる観光客や帰省客でにぎわい、海水浴場もたくさんの人でいっぱいになる。

観光客のために、地元の人が黙々と動く

でも、その前には、地元の人たちによる海岸清掃がある。
有名な海水浴場とはいえ、ゴミ箱は少なく、海岸には誰が捨てたのかもわからない空き缶やペットボトルが転がっている。
流木もあれば、使い捨ての浮き輪が砂に埋もれていることもある。

「海にポイ捨てするから流れてくるんだよ!」
そう叫びたくなる気持ちを、毎年ぐっと飲み込んで、今年も黙々とゴミを拾っていた。

地元の町内会では、場所ごとに担当が割り振られていて、少人数で広い海岸を清掃する。
人口が少ないこの島では、ゴミ箱を増やすにも、管理の手間が課題になる。
それでも毎年、観光客を迎える前に、みんなで準備をするのが恒例行事だった。

その一言に、すっと心がほどけた

理不尽だなと思いながらも、誰かがやらなきゃ始まらない。
そんな気持ちで、今年もゴミ袋を片手に歩いていたときだった。

ふと耳に入ってきたのは、観光客の声。
「ここの海、ほんとにきれいだね。だからまた来たくなるんだよね」

その一言に、肩の力がすっと抜けた。
モヤモヤがすべて消えたわけじゃない。
それでも「きれいだから来たい」と思ってもらえること。
そこに、少しだけ報われたような気持ちが生まれたのだった。

モヤモヤは残るけど、きっとまた拾いにいく

来年もきっと、同じように海を歩きながら、心の中で思うのかもしれない。
「なんで私たちばっかり……」 と感じる瞬間はきっとある。
それでも、あの言葉を思い出せば、また少しだけ前向きになれる気がする。

きれいだねって言葉が、こんなにも支えになるなんて。
来年もまた頑張れる気がした。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。