高価な着物やジュエリーなどは、母親から娘に、娘からその子どもにといったように代々受け継がれていくことも珍しくありません。大切な人から譲り受けたものを、自分も大切な人に渡したいという気持ちはとても素敵です。今回はそんな大切なものを譲ったら意外な結末を迎えてしまった経験のある筆者の知人、Hさんのお話です。

息子の結婚

Hさんは数年前に旦那さんを亡くし、ひとり息子も独立して現在はひとり暮らしをしています。
「お母さん、実は俺、結婚したい人ができたんだけど」
ある日Hさんは息子にそう言われ、やっとこの日が来たのだと胸が熱くなる思いでした。

というのもHさんは亡くなった旦那さんからもらった大きなダイヤの婚約指輪をとても大事にしており、娘がいないHさんはいつか息子がお嫁さんを連れてきてくれたら譲り渡そうと思っていたのです。
「はじめまして、こんにちは」
息子さんが連れてきたお嫁さんになる女性はとても清楚で素敵な女性で、Hさんは心から結婚を祝福したのでした。

そして結婚式を一週間後に控えたある日、Hさんは息子のお嫁さんにその大切な指輪をプレゼントしたのでした。
「大切にしていたものなんだけど、あなたにあげるわ。でももうデザインが古いから、好きなようにリフォームしてくれていいからね」
Hさんがそう言うとお嫁さんは嬉しそうに指輪を受け取ってくれました。

渡した指輪の行く先は……

その3日後、息子さんとお嫁さんが結婚式の流れを説明するためにHさんの家にやってきました。
「いらっしゃい! お式が楽しみね、きっと素敵なお式になるわよ」
2人を出迎えたHさんは、お嫁さんが今まで見たことのない新品のブランドバッグを持っているのに気づきました。

「素敵なバッグね」
お嫁さんはどちらかといえば質素な身なりをしているのでどうしてもそのバッグが目立ち、Hさんは珍しいと思いながらバッグを褒めました。
「ああこれ、頂いた指輪を貴金属買い取りに出したお金で買ったんです」
「え!?」
無邪気にそう言うお嫁さんに、Hさんは何も言えなくなってしまいました。
自分があげたものをどうしようがお嫁さんの勝手ではあるものの、お嫁さんがたった3日の間に躊躇なく指輪を売ってしまったことにHさんはモヤモヤした気持ちに。

それから数年たっていますが、今でもお嫁さんのバッグを見る度に複雑な気持ちになるそうです。

確かにHさんがお嫁さんにあげたものですから、お嫁さんがどうしようと自由です。ただ自分が大切にしていたものをあっさり売られてしまうと、複雑な気持ちになる人も多いのではないでしょうか。

【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。