義母の健康ルール
夫の海外赴任が終わり、日本へ帰ってきた夏。結婚と同時に渡航していた朝子さんは、初めて義実家への帰省を迎えました。
ところが「冷やすのは体に悪いからね」と義母が言い、つけたのは首振り扇風機一台だけ。
35度を超える外気のなか、汗が噴き出す夏休みの夜が始まります。
内臓を冷やすな!
夕食は、生姜たっぷりの鍋料理と湯気の立つ健康茶。
「こういう日は温かいものを食べて、体の中から整えなきゃ」
義母は満足げに笑いますが、家族は汗だく。
さらに追い炊きされたばかりの熱々風呂まで用意されていました。
「さっぱりするわよ」
そう言われて入ったものの、のぼせて目が回るほど。
風呂あがりにはクーラーではなく、また扇風機。
夫も「さすがにこれは……」とタオルで顔を拭きながらぼやき、朝子さんも返す言葉が見つかりません。
東洋医学においては、健康のため夏でも内臓を冷やさないことが重要視されているようです。しかし、猛暑は生命に関わるレベルであり、体全体を適切に冷やし、その日の体調にあった体温調節を行う必要があるのではと、朝子さんは身を持って感じていました。
その夜、布団の中で寝苦しさにイライラした子どもたちと小競り合いに。
「なんでこんな家に来なきゃいけないの! もう帰りたい」と泣き出した声に、朝子さんの心も折れそうになります。
ひそかな反抗
その夜、寝室として用意された客間でこっそりエアコンを入れました。
ひんやりとした空気に包まれて、ようやく息がつけました。
翌朝、義母は何も言いませんでしたが、その視線に“気づいていた”気配を感じました。
朝食の席も気まずい沈黙が流れ、食欲も湧きません。
帰りの車で、夫がぽつりと一言。「来年は、もう少し涼しい時期に帰ろうか」
すると子どもたちが続けます。
「冬は暖房もダメなんでしょ? 乾燥するからとか言ってさ。絶対行かない!」
家族それぞれが抱える思いが、表面化した瞬間でした。