今年の夏は平和なはずだった
私がフルタイムで働き始めて、初めて迎える夏。
小学3年生の息子は、今年から夏休みを小学校の学童保育で過ごすことになりました。
そこでは、毎日「宿題タイム」があり、先生が見てくれるとのこと。
「これなら、夏休み終盤の恒例『宿題終わったの?!』バトルとも無縁ね……」と、私はホッとしていました。
裏切られた期待
夏休みも残り10日ほどになった、ある夜のことです。
すっかり安心しきっていた私は、夕食後、軽い気持ちで息子に尋ねました。
「宿題、もう全部終わってるんでしょ? さすがだねぇ」
すると息子はテレビから目を離さずに、何気なくこう言いました。
「ううん。まだ読書感想文と絵日記が残ってる」
一瞬で血の気が引く私。
疲れと焦りが入り混じり、「なんで?! 学童で終わらせなかったの?!」と、思わず強い口調で問い詰めてしまいました。
息子の思いに気づいた瞬間
私の剣幕に、息子は体をビクッとさせ、目を丸く見開きました。
そして、みるみるうちにシュンとして、小さな声でこう言ったのです。
「だって……その2つは、去年ママと一緒にやったやつだし」
その言葉に、頭をガツンと殴られたような気がしました。
そういえば去年、私がまだ家にいた頃のことです。
私と息子は「ああでもない、こうでもない」と笑いながら、一緒に読書感想文を書き、絵日記を描いたのでした。
息子にとってそれは「面倒な宿題」ではなく、私との楽しい「イベント」だったのです。
夏の宿題がくれたもの
息子は、ただサボっていたわけじゃない。
私と一緒にやりたくて、その2つを大事に残してくれていたのです。
忙しさを言い訳に、息子の小さな心に気づけなかった自分が恥ずかしくて、情けなくて……。
私はすぐに『ごめんね』と謝りました。
その週末、私たちは2人で床に座り込んで絵の具を広げ、楽しく絵日記を仕上げました。
毎年、私を白目にさせていた夏の終わりの宿題。
でも今年は、息子の成長と愛おしさを教えてくれる、温かい出来事になりました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。