筆者の友人A子さんが体験した、ちょっと意外な朝の風景をご紹介します。
麦茶、もうないわよ!
「麦茶、もうないわよ!」
結婚して初めて迎えた夏の帰省。
リビングでひと息ついたそのとき、キッチンから義母の声が聞こえてきました。
その言い方に、「気づいたなら作りなさいよ」という圧を感じ、自然と立ち上がろうとしたその瞬間。
意外にも、夫が先に動きました。
やかんを手に麦茶を作り始める夫の姿に、義父母は顔を上げ、ぽかんとした表情を浮かべました。
夫の動きに驚く義父母の様子を見て、A子さんはふと、あることを思い出しました。
結婚前、夫は実家でほとんど家のことをしなかったと聞いています。
だからこそ、今の姿に義父母が驚くのも無理はないのかもしれません。
義姉が家を出た理由
義姉は、早々に家を出て、ほとんど帰ってこない。
もしかして、あの義母の“察して動け”という空気に疲れてしまったのかもしれません。
そう考えると、その理由にも少し心当たりが持てた気がしました。
その夜、義父とふたりになったとき。
A子さんは「ビール冷えてますけど」と声をかけてみました。
「冷えてるなら早く出せって、義母みたいに言われるかも」
そんな不安を飲み込んで、A子さんはそっと声をかけました。
すると、返ってきたのは意外な言葉。
「A子ちゃん、よく気がつくな。助かるよ。でも、あんたはゲストだから無理しなくていい」
拍子抜けするほど、やさしい声でした。
朝のキッチンの主役
翌朝、キッチンからじゅうじゅうと油の音が聞こえてきました。
のぞいてみると、エプロン姿の義父と、隣で焼き加減を教える義母の姿がありました。
「あっ、おはよう」
義父は照れくさそうに笑いながら言いました。
「昨日、母さんと話してな。時代が変わったなって。A子ちゃんと陽介(仮名)見てたら、男も女も関係ない。みんなでやらなきゃなって思ったんだ」
義母も「麦茶、美味しくできてたわよ」と、声をかけてくれました。
変わり始めた価値観
そして夫は、いつも通り実家でも朝のゴミ出しへ。
かつて実家では何もしなかった息子の陽介さんが、いまはA子さんと並んで家事をこなしています。
その姿に、義父母も驚き、そして何かを感じたのかもしれません。
特別なことをしたわけではありません。
でも、夫婦で家事を分担し、当たり前に過ごしてきた日々が、義実家の空気を少しずつ変えていたように思えました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2022年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。