楽しい夫、緊張する妻
これは私がまだ新婚間もない頃のお盆の話。
ご先祖のお墓参りを済ませ、その後は親戚達との宴会となりました。
お酒も入り、皆楽しそうにワイワイやっている中、義母から声がかかりました。
「ちょっとビールが足りないから買って来てくれない?」
夜道にて
時間は夜の9時過ぎ。私は近くのスーパーに向かって歩いていました。
街灯が少なく暗い道だったので、周囲を見回しながら慎重に進んでいると……
背後からタッタッタッとこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえました。
だんだんと近づいてくるのが分かります。
誰?!
私は前を向いたまま身を固くしました。
変質者だったらどうしよう。怖い気持ちはありましたが、意を決してバッと振り返ると。
そこに立っていたのは、なんと義姉の息子のAくん!
私にとっては甥っ子にあたる子でした。
帰り道
「俺も行くよ」
ぽつぽつと話すAくんはこの時高校3年生。
暗い中、一人で買い出しに出かけた私を気遣って追いかけて来てくれたようです。
もしかしたら親族の誰かに、一緒に行ってあげなさいと言われたのかもしれません。
買い物を終えた帰り道。Aくんと並んで歩きながらとりとめのない話をしました。
ぶっきらぼうな口調で答えてくれる彼から優しさがたくさん伝わってきて、胸が温かくなったものです。
現在
それから10年後の現在。私の娘にじゃれつかれてちょっと困ったように笑うAくんの顔は昔と変わりませんが、身長はうんと伸びて、今も変わらず頼もしいお兄さんです。
【体験者:40代・筆者、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:田辺詩織
元医療事務、コールセンター勤務の経験を持つ在宅ワーカー。文学部出身で、文章の力で人々を励ましたいという思いからライターの道へ。自身の出産を機に、育児ブログを立ち上げ、その経験を生かして執筆活動を開始。義実家や夫、ママ友との関係、乳幼児期から中学受験まで多岐にわたる子育ての悩みに寄り添い、読者が前向きになれるような記事を届けている。