知人のA子は、子育てと両立しながらフリーランスで働くママ。会社員を辞めてゼロからイラストを学び、今では安定した収入を得るまでになったそうです。
ただ、自由な働き方には、ママ友との距離感や「頼まれ事」との付き合い方に悩むこともあるとか。これは、A子が経験したそんなある出来事です。

フリーランスという選択

下の子が体調を崩しがちで、会社勤めを続けるのは難しいと感じていました。そこで思い切って退職し、前から興味のあったイラストを学び始めることに。

SNSで発信を続けるうちに少しずつ仕事が広がり、今では会社員時代よりも安定した収入を得られるようになりました。自分の手で働き方をつくることに、大きなやりがいを感じていたのです。

軽く言われた「お願い」

ある日、上の子が習っているサッカーチームのママ友のB子から

「サッカーのコーチの誕生日に似顔絵を描いてほしい」

と頼まれました。

しかも「コーチの顔を中心に子どもたち全員の顔も入れてほしい」「もちろんタダでね」と、悪びれた様子もなく言うのです。

かなり手間のかかる内容でしたし、私はこれを「仕事」としてやっています。親しい間柄とはいえ、特定の人だけに無償で応じることはできません。

そう伝えると、B子は「ケチすぎる」と露骨に不満げな表情を浮かべました。

凍りついた空気のなかで

その場の空気が一瞬、ぴりっとしました。私は困ったように笑うしかなく、内心では動揺していました。

そんなとき、口を開いたのがC子です。私より先にフリーランスとして働き始めた、よき相談相手のママ友でもあります。

「親しき中にも礼儀ありだよ。お願いするときは、ママ友だからって甘えていいことじゃないよ」と、穏やかな声で言ってくれました。

B子は一瞬、言葉を詰まらせて沈黙しました。気まずい空気が流れましたが、それ以上強くは反論せず、やがて話題は別のことに移っていきました。

言葉にできなかった思い

後日、あらためて「ありがとう」とC子に伝えると、彼女はにっこり笑って「お互いさまだよ」とだけ返してくれました。

本当は、私が言うべきことだったのかもしれません。でもそのときは、うまく言葉にできませんでした。だからこそ、C子の言葉に心から救われたのです。

断ることに勇気がいる場面は、これからもあると思います。でも、自分の仕事の価値を信じていい。あの日、改めてそう思えたことが、私にとって大切な学びになりました。

【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2025年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。