筆者の知人A子も、20代のころ交際相手の家庭での姿に違和感を覚えながら、それを見過ごしてしまった1人でした–––。
夢中になった彼との日々
彼と出会ったのは、友人に誘われて参加した合コンでした。場を盛り上げるのが上手で、それでいて私の話にもきちんと耳を傾けてくれる人。
何より印象的だったのは、毎回のように「今日は全部出すよ」とスマートに支払いを済ませる姿でした。そんな彼に、私はどんどん惹かれていきました。
交際が始まると、まるで夢のような日々。ちょっとした体調の変化にも気づいてくれたり、サプライズのプレゼントがあったり。
「この人となら、きっと幸せになれる」。そんな確信のようなものを抱いていました。
実家で見た「もう一つの顔」
付き合って数ヶ月が経ったころ、彼の実家へ挨拶に行くことに。少し緊張しながら訪ねたその日、私は思いがけない光景を目にしました。
「喉乾いた、水」「暑い、エアコン付けて」
彼は母親に対して、終始命令口調だったのです。
その場では言えず、帰り道に
「いつも家ではあんな感じなの?」
と尋ねました。すると彼は笑いながら、
「母親だから普通でしょ。金も渡してるし。A子には絶対あんな態度しないよ」
と答えました。
どこか引っかかるものはありましたが、「私には違う」と自分に言い聞かせてしまったのです。
母の言葉に耳を貸さなかった私
家に帰ったあと、胸の中のモヤモヤを実母に打ち明けました。
「親に横柄な態度をとる人は、いずれパートナーにもそうするようになるよ」
と、母は静かに諭してくれました。
でも、当時の私は聞く耳を持てませんでした。「私には優しいから大丈夫」と、母の言葉を押しのけるように結婚を決めたのです。
今になって思えば、自分の不安をごまかしていたのかもしれません。
あのとき、信じていれば……
結婚して一年ほど経ったころ、彼の態度は徐々に変わり始めました。無視されたり、命令口調で怒鳴られたり。
あの日、実家で見た彼の姿と重なっていくのが、怖いほどでした。
義母への態度が、そのまま私にも向けられるようになり、私は耐えきれず離婚を決意。
そのとき、ふと頭をよぎったのは、母の忠告でした。
「信じていれば」という悔しさは、今もどこかに残っています。もう二度と、あんな経験はしたくありません。けれど、あの痛みを経て、少しずつ人を見る目を養えてきた気がします。
この後悔を、次の出会いにきちんと活かしていけたら──。そう思えるようになった今、ようやく少しずつ前を向けるようになりました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。