緊張の授業参観
夫の転勤で、知らない土地に引っ越してきて数ヶ月。
新しい生活には少しずつ慣れてきたものの、まだ気軽に話せるママ友もおらず、小学3年生の息子も、どこかクラスに馴染みきれていない様子でした。
そんな中で迎えた、初めての授業参観。
「家族について」というテーマで書いた作文の発表会だと聞き、私は「どうか息子が固まったりせず、無事に発表を終えられますように……」と、教室の後ろから祈るように見守っていました。
まさかの“暴露”タイム
いよいよ息子の番。
緊張した面持ちで前に出た息子が口を開いた瞬間、私は耳を疑いました。
「うちのママは、パパのビールを盗んでます!」
一瞬、教室がシン、と静まり返りました。
息子は、そんな空気もお構いなしに続けます。
「パパが『金曜の夜の楽しみなんだ』って買ったビールを、ママはこっそり飲むんです。『ふぅ~、しみる~♪』って言ってるのも知ってます!」と、身振り手振りを交えて大暴露!
教室のあちこちからクスクスという笑い声。
先生も吹き出しながら「それは……面白いお母さんですね~」とコメント。
私はといえば、顔から火が出る思いで、今すぐこの場から消え去りたいと願うばかりでした。
赤っ恥から一転、まさかの展開に
息子の衝撃的な発表が終わり、私は縮こまっていました。
「きっと変な母親だと思われただろうな……」なんて、ネガティブな想像ばかりが頭の中をぐるぐる巡ります。
ところが、休み時間になると、近くにいたママさんたちが「さっきの話、最高でした!」「うちもやりますよ、夫の隠してるお菓子とか(笑)」と、笑顔で話しかけてくれたのです。
私のちっぽけな秘密は、意外にも共感の嵐を呼び、あれよあれよという間に会話の輪が広がっていきました。
その日のうちに、自然な流れで保護者のLINEグループにも招待してもらえたのです。
きっかけになった1杯
家に帰ると、息子が満面の笑みで駆け寄ってきました。
「ママ! 今日ね、クラスの子が『おまえのママ、最高じゃん!』って言ってくれたんだよ!」
その嬉しそうな顔を見て、私はこっそり涙ぐんでしまいました。
新しい環境での孤独や不安が、息子の“爆弾発言”によって、まるで嘘みたいに吹き飛んでいったのです。
あの日、私がこっそり飲んだビールは、夫にはちょっぴり申し訳ないけれど、私たち親子を救ってくれた“魔法の1杯”になりました。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。