夫の“家事力”
バリキャリ会社員であるハナさんは、帰宅が夜8時を過ぎる生活を送っていました。
家事は分担制で、掃除と洗濯は夫の担当です。洗濯物はきれいにピシッとたたまれ、部屋もいつも整っていました。
「洗濯物、たたむの上手だね」と声をかけると、夫はなぜか毎回、少しだけ苦笑いを浮かべていました。
玄関からの物音
ある平日の午後、在宅勤務中だったハナさんは、玄関の開く音に驚きました。入ってきたのは義母。
「あら、ごめんなさい。いないと思って……」と慌てて帰ろうとする義母に「お義母さん、待って。どうぞ上がってください」と声をかけた。
さらに「お義母さん、鍵持っていましたっけ?」と尋ねると、義母は観念したように言いました。
「バレちゃったら仕方ないわね」
しばらく沈黙のあと「家事を息子に頼まれただけよ、息子の家なんだから私が出入りして当然でしょ!」と繰り返すのです。
驚きでした。悪気はないのでしょうが、黙って1年以上も出入りしていたことが分かり、ハナさんには“承諾のない侵入”にしか感じられなかったのです。
夫の態度
義母に自分のブラジャーやストッキングまでたたまれていたと知り、ハナさんは顔から火が出るような恥ずかしさを感じました。そして同時に、込み上げてきたのは怒りでした。
その夜、帰宅した夫に詰め寄ると、「タダでお願いできる、家事のプロにお願いしただけだよ」と悪びれもせずに言い放ちました。その態度に、怒りはさらに膨らみました。
「なんで黙ってたの?」「なんで私のものまで」と責めると、夫は「別にいいだろ!」と吐き捨てたのです。
いちばん許せなかったのは……
やけに行き届いた夫の家事への違和感。気づいていながらも、ハナさんはそれを見ないふりでやり過ごしてきました。多忙な日々の中で、家事をしてもらえることに甘え、見て見ぬふりをしてしまったのです。
夫が軽い気持ちで義母に家事を頼み、義母も黙ってその役割を引き受けていた。どちらにも、ハナさんはきちんと向き合って感謝の言葉をかけていなかったのです。
そのことに気づいたとき、いちばん腹が立ったのは夫でも義母でもなく、自分自身にでした。違和感にふたをし、相手を責めるばかりでいた自分を、ハナさんは心の底から許せなかったのでした。この出来事を機に、ハナさんは夫とじっくり話し合うことを決意しました。そして、小さな違和感にも目を向け、大切な人ときちんとコミュニケーションをとることの重要性を痛感したと言います。
【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2024年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。