期待していなかった記念日
結婚して十年目の結婚記念日。
とはいえ、我が家ではそういった節目を特に祝うこともなく、夫はいつも通り朝から出勤していきました。
仕事が忙しいのもわかっているので、私は1人で子どもたちの送り迎えや家事をこなして、いつも通りの1日を過ごすつもりでいました。
正直、少しだけ寂しさもありましたが、これが“普通”になっていたのです。
思いがけない帰宅
夕方、夕飯の支度をしていると、玄関の鍵がカチャッと開く音がしました。まだ18時前。
「宅配?」と思って出てみると、そこにいたのは、スーツ姿の夫でした。
私は思わず「どうしたの? 何かあったの?」と驚いて声をかけました。
夫は少し照れたように笑いながら、「今日はどうしても早く帰りたかったんだ」と一言。
続けて、「結婚記念日だろ? たまには、ちゃんと祝おうと思って」と、小さなケーキの箱を差し出しました。
無口な人の優しさ
私はその場で涙が溢れそうになりました。
夫は、普段から口数が少なく、愛情表現なんて皆無。
だけど、こうして黙って気持ちを行動で示してくれる人なんだと、改めて思いました。
子どもたちも「パパ早いね!」と大はしゃぎ。
家族で囲んだケーキは、これまでで1番甘くて、温かく感じました。
夫の一言が、何よりのプレゼントだったのです。
心に残る記念日
あの日以来、私は夫への見方が少し変わりました。
言葉にしないからといって、愛情がないわけじゃない。
むしろ、不器用な人ほど、誰よりも深く想ってくれているのかもしれません。
これからも、毎年この日が来るたびに、あの小さなケーキと、夫の照れた顔を思い出すんだろうなと感じています。
静かだけれど、確かな幸せを実感できた1日でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。