これは、知人のA子さんに聞いた話です。共働きで子育てをするなか、限界寸前だったA子さん。夫の何気ない行動が、心の支えとなった瞬間について語っています。

限界が見えた夜

育休から仕事に復帰して半年。朝は子どもの準備と保育園の送り、日中は職場でバタバタと働き、夜は家事と寝かしつけ。気がつけば、自分の時間はまったくなく、毎日がギリギリの綱渡りでした。
ある晩、洗い物をしながら、気がつくと涙がポロポロとこぼれていました。疲れているのに、眠ることもできず、「私、どうすればいいの?」と心のなかで叫んでいました。

不満は言えず、ただ溜め込んでいた日々

夫はもともと穏やかで誠実な人。ただ、帰宅は毎晩遅く、家事や育児については「任せた方がうまくいく」と思っていたようです。
私もまた、「自分が頑張らなきゃ」という思いが強く、辛くても助けを求めることができませんでした。夫が疲れているのも知っていたので、口にすれば相手を責めることになるのでは……と遠慮してしまっていたのです。
実際には、何度かさりげなく「最近しんどくて」と漏らしたこともありましたが、うまく伝わっていないように感じて、「これ以上言っても、夫を困らせてしまうだけかもしれない」と、次第に言葉を飲み込むようになっていきました。
“我慢すれば波風が立たない”そんな思いで、ただひたすら毎日をやり過ごしていたのです。

深夜の台所で見た夫の姿

ある夜、寝かしつけのまま寝落ちしてしまい、ふと目が覚めました。台所の明かりがついていて、そっと覗くと、夫が不器用な手つきで洗い物をしていました。
慣れない手つきで食器を拭きながら、子どもの保育園グッズを整えている。静かなその姿に、私は思わず涙がこぼれました。

救われた気持ちと、はじめての本音

翌朝、私はテーブルにある「朝は俺が起きるから、ゆっくり寝てて」と書かれたメモを見つけ、夫に「ありがとう」と御礼を言いました。
夫は少し照れくさそうに、「もっと早く気づけばよかった」と言って笑いました。
その言葉に、胸がじんわり温かくなったのを覚えています。
後で夫に聞いたところ、「何か違和感は感じていたけど、言ってこないなら大丈夫だと思ってた」「手伝っても余計に気を遣わせたら逆に迷惑かなと迷っていた」と、本音を話してくれました。
私が黙っていたからこそ、夫は“任されている”と受け取っていたのだと、その時はじめてお互いのすれ違いに気づけたのです。
完璧でなくても、うまく言葉にできなくても、行動で気持ちを伝えてくれた夫。
あの夜の光景は、今も私の心に残り続けています。
そして今では、ふたりで支え合うことの意味を、少しずつ実感できるようになりました。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。