ずっとそこにある、懐かしい風景と家族の優しさに包まれて過ごす中で気づかされたのは――?
日々に追われ、彼とも破局
社会人になって家を出てから、もう10年以上が経ちます。
実家はそれほど遠くないのですが、「いつでも帰れる」と思うと、つい後回しにしてしまい、ずいぶんと長いこと帰省していませんでした。
実は最近、長く同棲していた彼と別れたばかりの私。
そろそろ結婚かな、と思っていた矢先、「君といると、なんだか休まらない」と言われてしまったのです。
その一言によって、私たちの関係は急激にギクシャクし、それからお別れまではあっという間でした。
久しぶりの帰省
かといって仕事も忙しく、悲しみに浸る暇すらありません。
毎日少しずつ、心がすり減っていくような感覚がありました。
母から一本の電話がかかってきたのは、そんなときでした。
「最近どうしてるの? たまには帰ってきたら?」
忙しい私を気遣ってか、母からこんな風に電話をかけてくることはめったにありません。
今思えば、親の勘というものだったのかもしれませんね。
なんだか急に家族の顔を見たくなった私は、久しぶりに実家へ帰ることにしたのです。
まるで少女時代のように
数年ぶりに実家の玄関をくぐると、ふわっと昔の匂いがしました。
みんみんと響くセミの声を聞きながら縁側に座っていると、母が大きなスイカを切ってくれます。
冷たくて甘いスイカにかぶりつき、うちわをパタパタとあおいでぼんやり過ごす昼下がり。
夕飯は家族そろってテレビを見ながら、色とりどりの素麺を食べました。
父はビール片手にご機嫌です。
久しぶりのはずなのに、そんな気がせず、昨日もこうしていたような気がします。
一瞬で少女時代に戻ったようで、不思議な感覚でした。
時の流れ
子どもの頃は、「将来はどんな仕事をするのかな」「どんな人と結婚するんだろう」と、ワクワクしながら、想像に胸をふくらませていたっけ。
それなのに、今の私は毎日仕事に追われ、恋愛だってうまくいかず、いまだにひとり。
ため息をつきながら、ふと家の中を見回しました。
あの日のままだと思っていた家ですが、よく見ればあちこちが古くなっています。
お母さんって、こんなに白髪があったっけ。
お父さんって、こんなに痩せていたっけ――。
あぁ……、時が流れたんだな。
この家も、この風景も、いつまでも変わらずここにあると思っていたけれど、そうじゃないんですよね。
私、自分のことでいっぱいいっぱいだったな。
胸に熱いものが、こみあげてきました。
大切な場所
帰り際、「たまには帰ってきなさいよ」と母は笑いました。
その目じりには、細かい皺がいくつも刻まれています。
来年の夏は、久しぶりに浴衣を着て、両親と夏祭りに行こう。
ここはいつでも少女時代に帰れる場所。
でも、いつまでもあるとは限らない場所。
「次の夏も、その次の夏も、帰ってくるからね」
さあ、明日からも頑張るか。
【体験者:30代女性・会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:大城サラ
イベント・集客・運営コンサル、ライター事業のフリーランスとして活動後、事業会社を設立。現在も会社経営者兼ライターとして活動中。事業を起こし、経営に取り組む経験から女性リーダーの悩みに寄り添ったり、恋愛や結婚に悩める多くの女性の相談に乗ってきたため、読者が前向きになれるような記事を届けることがモットー。