すれ違いが続く毎日
夫のは仕事がとても忙しく、帰宅するのはいつも子どもが寝静まった後。私は日中、家事と育児に追われていて、夫と顔を合わせても「お疲れさま」と言うのがやっとでした。
会話も減り、同じ家にいるのに心はどこか離れているようで、ふたりの間に静かな距離ができてしまっていたのです。何かを変えたいと思いながらも、何をどうすればいいかわからず、日々が過ぎていきました。
思わずこぼれた一言
そんなある夜、疲れ切った様子で帰宅した夫に、私はいつものように「無理しないでね」と声をかけました。すると彼は、玄関で靴を脱ぎながらふと立ち止まり、ぽつりとこう言ったのです。
「いつもありがとう。本当に助かってる」
思いがけないその言葉に、一瞬で胸の奥がじんと熱くなりました。心のどこかでずっと欲しかったのは、そんな一言だったのかもしれません。
言葉にできなかった感謝
思い返せば、私も夫の頑張りに感謝していたのに、きちんと伝えたことはありませんでした。きっと、彼も同じだったのでしょう。
「ありがとう」のたったひと言が、どれほど心を癒やしてくれるのか、あの時初めて知った気がします。夫の中に確かにある、優しさと思いやり。それが、その短い言葉にすべて込められていたように感じました。
小さな一歩からの変化
その日以来、私たちはほんの少しずつですが、お互いの気持ちを言葉で伝えるようになりました。忙しさは変わらなくても、心の距離は少しずつ縮まっているように感じます。
夫の「ありがとう」は、私にとって忘れられない一言です。これからも、すれ違いながらでも歩み寄っていけるように、小さな言葉を大切にしていきたいと思っています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。