妹からのLINE
7月の昼下がり。照り返す日差しがアスファルトを焼きつけるような猛暑日。
玲子さんは冷房の効いた部屋で、パソコンに向かって作業していました。そんなとき、スマホに1通のLINEが届きます。
「お願い! 今すぐ来て」
たったそれだけの文面に、胸がざわつきました。妹は妊娠9か月。初産です。
玲子さんは陣痛が来たと判断し、着替えもメイクも後回し。サンダル姿のままタクシーに飛び乗りました。
玄関先で突きつけられた“真の目的”
「破水だったらどうしよう」「病院は? 着替えは?」
焦りで胸がいっぱいのままタクシーを降り、インターホンを押します。
玄関が開くと、そこにいたのは拍子抜けするほど元気そうな妹の笑顔でした。
「ありがと〜! 助かったよ。んじゃ、これ運んで」
差し出されたのは粗大ごみの処分一覧と、山のような古着や雑貨。
どうやら、出産前に家を片づけたくなったらしく、断捨離作業のために玲子さんを呼んだようです。陣痛どころか、いきなり炎天下の肉体労働。思わず言葉を失いました。
「私が妊娠したとき、あんた何してた?」
心の中でそうつぶやきながらも、玲子さんは黙って段ボールを抱えました。
「仕方ないな」と思ってしまう
汗だくになってゴミ袋を持って往復するうち、ふと昔の記憶がよみがえってきました。私が妊娠中、つわりで辛かったとき、妹に買い物を頼んだ日のこと。
「え〜、メンドクサイ」
たった一言で断られた悔しさを、玲子さんは今も忘れていません。それでもこうして呼ばれれば来てしまう。
妹の顔を見ると「仕方ないな」と思ってしまう。わがままで甘えん坊な性格は、昔から変わっていません。
呼べば飛んでくる私が、あの子には“安心材料”なのかもしれない。そう気づいたら、怒る気力も薄れていきました。
姉の役回り
作業が終わり、冷房の効いた部屋で麦茶を飲んでいたときのことです。
妹が何気なくつぶやきました。
「やっぱり姉って、便利屋だわ」
その一言に、思わず吹き出しそうになりました。
イラっとすることもありますが、こういう役回りの姉も、案外多いのかもしれませんね。
【体験者:30代・フリーランス、回答時期:2024年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。