その言葉に傷ついた
なつみさんは、子どもが通う地域のサッカーチームで、吉田さん(仮名)と知り合いました。
どこか上品な雰囲気をまといながら、初対面でも気さくに話しかけてくるタイプ。
最初は、感じのいい人だと思っていました。けれどある日、こんな言葉をかけられたのです。
「私、付き合う人は“メリットがあるか”で決めてるの。あなたはちょっと違うかな」
悪気のない笑顔のまま、さらりと放たれたひと言に、なつみさんは呆然としました。
そんなことを言われたのは、初めてだったのです。
擦り減っていく心
なつみさんは、あのひと言に驚きつつも、すぐに関係を切る決心はつきませんでした。
この年齢で新しい友達をつくるのは、なかなかむずかしい。そんな気持ちが、心のどこかにあったのです。
けれど、吉田さんの行動には驚かされることが続きました。
夫の会社の優待券を「買ってくれない?」と頼まれたかと思えば、商品券や娘さんのバレエ発表会のチケットも。
さらには、好みを無視した高級ランチの誘いまで、当然のように押しつけてきます。「人を選ぶ」と言いながら、都合のいいときだけ頼ってくる。
その一方通行な関係に、なつみさんの心は静かに擦り減っていきました。
笑って放った、たったひと言
その日も吉田さんは、なつみさんに高級レストランの予約画面を見せながら言いました。
「次はここに決めてるからね。あなたには、ちょっと違う感じの場所だけど」
相手の都合や気持ちを考える様子は、まるでありません。
なつみさんは、ついに限界を感じました。思いきり皮肉を込めて、笑顔でこう返したのです。
「そう? 私の基準でも、あなたはけっこう違うかも」
場の空気が止まりました。吉田さんは一瞬言葉を失い、それきり話を変えたまま別れたのでした。
静かに、世界が変わった
あのやりとりのあと、吉田さんとの連絡は自然と減っていきました。
付き合いは終わったけれど、なつみさんの気持ちは不思議と晴れやかでした。
「あのとき、思いきって言えてよかった」そんなふうに、なつみさんはふり返っていました。
ほんの少しの勇気が、心の景色を大きく変えてくれることがあるのです。
【体験者:30代・会社員、回答時期:2023年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。