無口な夫と、普通の毎日
夫とは、今年で結婚10年目になります。
昔から感情をあまり表に出さない人で、記念日もプレゼントもない代わりに、黙って家事を手伝ったり、そっとお茶を淹れてくれたり。
そんな“言わないけど伝わる優しさ”が彼の魅力でした。
それでも、どこかで寂しさを感じていたのは事実です。
「今日はどうだった?」と聞いても、「普通」とだけ。
楽しいのか、疲れているのか、わからないまま日々は過ぎていきました。
小さな違和感
ある日、夫が珍しく仕事で遅くなると言ってきました。
でも、帰宅は翌朝。
理由を聞いても「飲みすぎた」とだけ。明らかに様子がおかしい。
それからというもの、彼は妙に優しくなり、何かを言いたそうな素振りを見せていました。
届いた一通の手紙
数日後、ダイニングテーブルの上に、夫の字で書かれた封筒が置かれていました。
「10年間、ありがとう」とだけ書かれた表紙に、私は思わず心がざわつきました。手紙には、こう綴られていました。
「最近、会社で倒れかけて病院に運ばれた。大事には至らなかったけど、ベッドの上で一番に思い浮かんだのが、お前だった。“お前がいてくれてよかった”と心の底から思った。何も言わずに毎日を支えてくれて、ありがとう。」
涙とともにこぼれた本音
その夜、私は彼に「読んだよ」とだけ伝えました。すると、無言で私を抱きしめてきたんです。
そして、彼が震える声で「お前がいたから頑張れたんだ」と。無口な夫が、涙を流していました。
言葉は少なくても、気持ちは確かにあったんだと感じた瞬間でした。
10年分の想いが、ようやく一つになったような気がします。
これから先も、彼の隣で静かに笑っていたい。そう思えた、忘れられない夜になりました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。