はじめは「おすそ分け」だった
R子さんは、お菓子作りが得意なママ友です。
ママ友の集まりに、手作りのクッキーやケーキなどをよく持ってきてくれていました。
「これ、昨日焼いたの。よかったら食べて♡」
と差し出されるお菓子は、見た目も味も完璧で、私たちは「すごーい!」と毎回大絶賛。
R子さんの手作りお菓子を囲んで、ありがたく楽しい時間を過ごしていました。
突然の「材料費請求」に戸惑う
やがて、R子さんはお菓子の販売許可を取得し、イベントなどに出店するようになりました。それは喜ばしいことでしたが、同時に彼女の行動に変化が見え始めたのです。
それから大量のお菓子を持ってきては、当然のように「はい、材料費払ってね」とお金を請求するように。「1個280円ね!こっちは500円!」と堂々と言うこともありました。
美味しいのは確かですが、突然の代金請求に私たちは戸惑いました。
それはお金を払うのが嫌だとか、いつもタダでお菓子にありつきたいと思っているわけではありません。
マルシェではなく友人同士のプライベートな集まりでのまるで押し売りのような雰囲気に、他のママ友たちもどこかぎこちない笑顔を浮かべるようになっていました。
静かな一言が、空気を変えた
そんな空気を一変させたのが、普段はおとなしいN美さんでした。
ある日、またしても大量のマフィンを並べて「ほら、今日も持ってきてあげたよ!1個350円でーす♪」とR子さんが言った時、N美さんが、静かに口を開いたのです。
「R子ちゃん、ちょっと気になってることがあって……。実は私、R子ちゃんみたいにイベントへ出店している人から聞いたんだけど、『頼んでいない相手に物を渡して、後から対価を求める行為』って、販売方法として問題になるケースもあるって聞いたことがあるの」
声のトーンは優しいのに、その言葉には妙な説得力がありました。
「もちろん、R子ちゃんに悪気があるとは思ってないよ。ただ、念のため気をつけたほうがいいのかもと思って」
と付け加えたその配慮も見事で、場の空気はすっと静まり返りました。
平和はこうして守られた
R子さんは「え、そうなの……?」と呟き、言葉を失いました。
それ以来、手作りお菓子の押し売りはピタリと止まり、ママ友会は以前のような穏やかな雰囲気を取り戻しました。
あの時、誰もが心の中でN美さんに拍手を送っていたと思います。
「やんわり、でも的確に伝える」って、難しいけれどとても大切なことなんだと、改めて気づかされた出来事でした。
【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2025年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。