駅のエスカレーターで、筆者の知人・智子さん(仮名)がうけた、お腹への衝撃。前にいた女性の“日傘”が原因でした。何気ない動きが、こんな出来事を生むなんて。今回は駅で起きた、智子さんのすごく痛い体験のお話です。

穏やかな午後の駅

平日の午後。
駅のエスカレーターは空いていて、人の流れもまばらでした。

智子さんは、都心のサロンで長年経験を積んできたベテランネイリスト。次のステージを見据えて、資格試験取得のための講習に通う日々です。

この日も講習に向かう途中、駅のエスカレーターに差しかかると、智子さんの前には初老の女性が乗っていました。
手には、少し長めの日傘を持っています。

最近は日差しも強くなってきたな。
昼間は空いていて助かるし、もうすぐ電車も来る頃かもしれない。
そんなことを、ぼんやりと考えながら、智子さんは静かに距離をとって立っていたそうです。

けれど、その直後。
まったく予想もしなかった“出来事”が起こりました。

駆け込み乗車はおやめください

「まもなく、2番線に電車が到着します。白線の内側に下がってお待ちください。」
構内にアナウンスが響いた直後、前にいた女性が突然、日傘をリレーのバトンの様に握り直して、小走りに駆け出しました。

傘の先端は真後ろを向いたまま。走り出す腕の勢いで、そのまま智子さんのお腹に“ドンッ”と突き刺さるように当たったのです。

息ができないほどの衝撃。

一瞬の出来事に、思わず前かがみになり、バランスを崩して数段分も後ろに転げ落ちてしまいました。

まわりには驚いた様子の人もいたそうですが、女性は少しだけ振り返ったあと、何事もなかったように電車へ乗って行ってしまいました。

痛みをこらえて

エスカレーターは動いたまま。
このままでは危ない、とっさにそう感じた智子さん。

しかもこのあと講習も控えていたため、
「早く立たなきゃ」と焦る気持ちで、必死に体を起こしました。

ところがその瞬間、ズキッと、これまで感じたことのない鋭い痛みがお尻の中央から背骨まで突き上げたのです。
背中を真っすぐにしていられないほどの衝撃でした。

脂汗をにじませながら、何とか電車に乗り込み、予定通り講習を受けました。
ただ、時間が経つにつれて、お尻に感じた重く鋭い痛みはどんどん強くなり、その足で病院へ直行しました。

診断結果は「仙骨骨折」。
ドクターからは、安静にして痛み止め処方でしか対処はできない。
全治には時間がかかると聞かされ、しばらく言葉を失ったと振り返ります。

それでも、5日後に控えていた資格試験だけは、どうしても諦めたくなかった。

1年近くかけて準備してきた試験。
痛み止めを飲み、積み重ねてきた努力と覚悟を胸に、足を引きずりながら会場へ向かいました。

お尻が割れたのか

その後の資格試験では、数時間のあいだパイプ椅子に座り、時間との戦いのなかでネイルの技術を競いました。
その時は、 本当にお尻が割れてしまったかと思うほど、強烈な痛みだったそうです。

今もときどき、当時のことを思い出すと、腹が立つといいます。ただ、あの出来事がきっかけで、
「自分も、無意識に誰かを傷つけてしまったことがあるかもしれない」と、ふと思うようになったそうです。

無意識で持ち歩く物の危険性。そして、日常にひそむ“小さな加害性”。
それは、誰にとっても、決して他人事ではないのかもしれません。

【体験者:30代・ネイリスト、回答時期:2024年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。