家庭菜園を楽しむ日々に、子供がふと気づいた「なんかニンジンが減ってるよ?」。はじめは動物の仕業かと思っていたけれど、ある日、筆者の友人・ともみさん(仮名)はその“予想外の真相”を目にすることになります。

軽自動車が

しかし後日、リモートワーク中のことでした。
ともみさんがふと、庭の方に目をやると、家の前に見覚えのある軽自動車が止まっていました。

降りてきたのは、義母と義父。
ふたりは迷いもなく庭へ入り、畑にしゃがみこむと、野菜を次々と袋に入れ始めました。
トマト、ピーマン、ナス、ジャガイモ。
無言で、手際よく、ポンポンと。

ともみさんは慌てて外に出ました。
「お義母さん、なにしてるんですか?」

義母はにこっと笑って言いました。
「あら、今日は家にいたの? 余ってるんでしょ? いただいてるのよ」

思わず心の中でツッコミました。
いや、余ってないし。収穫を楽しみに育てたのは、子供たちです。

その瞬間、「……これ、ちゃんと伝えなきゃ」言葉がすぐには出なかったけれど、気持ちは決まっていました。

驚きと戸惑い、そして怒り。
そんな気持ちが重なりながら、ともみさんは静かに口を開こうとしていました。

野菜の無い畑に、実ったもの

ともみさんは再び、子供たちとオクラやトウモロコシを植えました。
今度こそはと願いながら、水をやり、日々の成長を楽しみにしていました。

けれど、またしても。
気づけば、育ちかけの野菜が、いつの間にかなくなっていたのです。

何度か、ともみさんは義母にやんわりと伝えてきました。
「子供たちが、収穫を楽しみにしてますので……」

けれど義母は、にこやかに返しました。
「私たちもよ。ね、お父さんも、楽しみよね」

ともみさんは、言葉をのみこみました。

子供たちは納得できず、声を上げました。
「ねぇ、ちゃんとバアバとジイジにやめてって言ってよ、パパ!」

けれど夫は、苦笑しながら答えました。
「えっ、食べてもらえるんだから、いいじゃないの」

ダメだこりゃ。
ともみさんは、心の中でそっとそうつぶやいたそうです。

そして決めました。家庭菜園はすべて撤去。
代わりに人工芝を敷いて、テーブルを置きました。
今では庭でキャンプをしたり、水遊びをしたり。
土ではなく、笑い声があふれる場所になりました。

「育てる楽しみは奪われたけど、私たちの庭が戻ってきた気がします」
ともみさんは、そう話してくれました。

義両親も、たまにバーベキューに呼ばれるのを楽しみにするようになりました。
最近ではキャンプ飯に夢中で、それが新しい趣味になったそうです。

息子一家が近くに家を建てたことが、義両親にとっては本当に嬉しかったのでしょう。
つい、何度も足を運びたくなってしまったのかもしれません。

最初は戸惑いばかりだったけれど、収穫をめぐる小さなすれ違いが、家族のかたちを見つめ直すきっかけになりました。

今では、野菜を分け合う代わりに、時間と笑顔を分かち合っています。
家族って、こうして形を変えていくものなのかもしれません。

【体験者:30代・会社員、回答時期:2023年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。