「この道でよかったのだろうか」と、自分の人生を振り返って立ち止まる瞬間は誰にでもあるものです。気付けば思い描いていた未来と少し違う。そんな揺らぎに、胸がざわつくこともあるのではないでしょうか。今回は、幼いころからピアノに打ち込み、母の期待に応えようとしてきた筆者の知人A子から聞いた話をご紹介します。

姉の言葉に、胸を刺された日

ある日、ポロッと口から出てしまったのです。「お姉ちゃんは自由でいいね。お金もあるし、羨ましいよ」

すると姉は少し寂しそうな笑みを浮かべて、こう言いました。

「私はずっと、あなたが羨ましかったよ。お母さんはあなただけを見てたし、私と2人で出かけた記憶なんて、ほとんどないの」

「そんなふうに思っていたの……?」

その言葉に、胸が締め付けられました。ときには鬱陶しいとまで感じていた母。自分だけが苦しんでいたと思っていたのに、姉もまた、構ってもらえなかった寂しさを抱えていたのです。そして、母も私の夢にすべてをかけてくれていたことに、初めて気付かされました。

あの時間が、今の私をつくっている

それまで私は、自分の人生をどこか後悔していました。「もっと自由に選べれば、今ごろ違っていたのかもしれない」と。でも今は、「あれで良かったのだ」と思えるようになったのです。

母と過ごした時間、音楽に真剣に向き合った日々、そこで出会えた人たち。すべてが私を育ててくれたと感じています。

今は子どもたちにピアノを教える毎日です。華やかなステージに立つ人生ではないけれど、音楽と出会えたこと、支えてくれた人たちに感謝しながら、穏やかに日々を重ねています。

【体験者:20代・女性、回答時期:2025年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。