ヨーロッパ留学経験者のプライド
大学時代、私はヨーロッパに1年間留学していました。
美術館でのマナーやテーブルでの作法など、ヨーロッパ流の振る舞いはすっかり身について、帰国後は「やっぱり海外経験は貴重だよね」と、ちょっとした優越感に浸っていたものです。
これは、そんな私が初めて東南アジアのタイを訪れることになった時のこと。
「海外には慣れてるし、大丈夫!」と軽い気持ちで飛び立ったのですが……。
キラキラの寺院で、まさかの大失態
バンコクに到着してからは、すべてが新鮮でした。
カラフルな屋台、香辛料の匂い、そして何といっても、黄金に輝く美しい寺院!
事件はまさにその寺院で起こりました。
その美しさに目を奪われ、夢中でシャッターを切っていた私は、何の迷いもなく本堂へ足を踏み入れました。
ふと気づくと、視界の端に整然と並ぶ他の人たちの靴が見えました。
それを見た瞬間、全身の血の気が引きました。
神聖な本堂に、私だけが土足で入ってしまっていたのです。
すぐそばにいた僧侶が鋭い視線を私に向け、タイ語で何かを言いました。
早口で、何を言っているのかは分かりませんでしたが、その厳しい表情は明らかに私への非難でした。
プライドが音を立てて崩れていく
私は慌てて英語で謝りましたが、僧侶はため息をつきながら、再びタイ語で何かを言いました。
観光客の視線も痛いほどに突き刺さります。
寺院の外に出たところで、ツアーガイドの女性が優しく声をかけてくれました。
「タイでは本堂に靴を履いたまま入るのはマナー違反なんです」
その一言で、私は自分の無知と傲慢さを痛感……。
積み上げてきた「海外慣れしている自分」というプライドが、崩れ去った瞬間でした。
謙虚さを学んだタイ旅行
それからの旅では、ガイドさんの説明を丁寧に聞き、文化の背景に耳を傾けるよう心がけました。
「異文化理解」とは、表面的な知識ではなく心からの敬意なのだと、やっと分かったのです。
ヨーロッパへの留学経験だけで世界を分かった気になっていた私にとって、このタイ旅行は、世界の広さを教えてくれた忘れられない旅となりました。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。