いつも優しかったおばあちゃん
子どもの頃、私は祖母が大好きでした。
いつも優しく、会えばお小遣いをくれたり、私の好きなお菓子をこっそり買ってくれたりしたものです。
だからこそ、母が祖母に見せる態度がずっと不思議でした。
母は、家族の集まりでも祖母と目を合わせず、そっけない会話しかしなかったのです。
私は子どもながらに「おばあちゃんは優しい人なのに、どうしてママはあんなに冷たくするんだろう」と不思議に思い、母を責める気持ちさえ感じていました。
でも、なんだか触れてはいけないことのような気がして、母に直接聞いたことはありませんでした。
違和感を抱きながら、そのまま時間が流れていきました。
結婚前に知った衝撃の事実
昨年、私の結婚が決まった頃のことです。
ある日、何気ない会話の中で、母がぽつりと話し始めました。
「あの頃、お母さん、本当に辛かったのよ」と……。
母は、結婚当初に祖母と同居していたそうですが、家事の全てを押し付けられ、「嫁なんだから」という言葉をまるで呪文のように浴びせられていたそうです。
「嫁に来たというより、うちに拾ってもらえたんだと思え」とまで言われ、何をしても叱責され、否定される日々。
当時の母の苦しみは、想像を絶するものだったでしょう。
母の“冷たさ”の奥にあったもの
初めて聞く母の辛い過去に、私は言葉を失いました。
限界を感じた母は、父を必死で説得し、同居を解消したそうです。
ようやく祖母と離れて暮らせるようになり、少しずつ自分たちの家庭を築いていった母。
私が育った温かい家庭は、母のこうした我慢と苦労の上に成り立っていたのだと知り、胸が詰まる思いがしました。
なかったことにはできなかった
「だから、おばあちゃんとは距離を置いているの。あの過去を、なかったことにはしたくないのよ」
母のその言葉を聞いて、私はようやく気づきました。
祖母に対する母の態度は、単なる“冷たさ”ではなく、辛い過去をなかったことにしないための、そして自分を守るための、最低限の線引きだったのです。
子どもの頃は単純に見えていた母と祖母の複雑な関係。
大人になった今、ようやくその真実を知り、平面的だった母と祖母の関係が、ようやく立体的に見えるようになった気がします。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。