娘のピアノ発表会での話。
練習では完璧だったはずなのに、本番で手が止まってしまいました。
泣き出してしまうのでは、とハラハラしていると、娘は凛とした表情で――?

ドキドキの、ピアノ発表会

今日は、娘のピアノ発表会の日です。

この日のために、毎日コツコツと練習を重ねてきた娘。
そんな努力を誰よりも知る私もまた、ドキドキしながら、観客席に座っていました。
「あぁ~、ソワソワする。でも、きっと大丈夫」

人一倍緊張しやすく、大人しい性格の娘。
心配ではあるものの、本番前のリハーサルでもミスなく弾けていましたし、指の運びも自信に満ちていたように見えました。

だから、きっと大丈夫。

突然、演奏が止まり……

いよいよ娘の出番。
緊張に顔をこわばらせた娘が、舞台中央に歩いていきます。

小さなお辞儀をしてピアノの前に座ると、鍵盤に手を置き、最初の音を弾き始めました。
順調な滑り出しに、胸をなでおろしたそのとき――。

突然娘の手が止まりました。
「えっ」

会場全体が息をのむように、空気がかたまりました。
どうしようもない沈黙が流れるなか、娘は下を向いて硬直しています。

「やり直します」

「あの子、泣き出してしまうわ」
手に汗をにぎりながらハラハラと見守っていると、娘はゆっくり顔を上げ、小さな声でこう言いました。

「やり直します」
その声は震えていましたが、静まりかえった会場に、はっきりと響きました。

そして、娘は最初の音からもう一度弾き直し、今度はミスなく、堂々と演奏をやり遂げたのです。

演奏が終わると、会場中から温かな拍手が湧き起こりました。
娘の凛とした表情に、私は思わず目頭が熱くなってしまいました。

小さな娘の、大きな勇気

失敗しても自分で立ち上がり、しっかりとやり遂げた娘を、とても誇らしく思います。
きっと、緊張と不安で胸が押しつぶされそうだったろうに、小さな娘は本当によく頑張りました。

この日の勇気を、ずっと忘れないでいてほしいです。
そして私も、今日のことを一生忘れないことでしょう。

【体験者:30代女性・専業主婦、回答時期:2025年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:大城サラ
イベント・集客・運営コンサル、ライター事業のフリーランスとして活動後、事業会社を設立。現在も会社経営者兼ライターとして活動中。事業を起こし、経営に取り組む経験から女性リーダーの悩みに寄り添ったり、恋愛や結婚に悩める多くの女性の相談に乗ってきたため、読者が前向きになれるような記事を届けることがモットー。