“たまにはふたりで”
地元の小さな町で育ったC子さんは、同じ地域の男性と自然に交際を始め、やがて結婚が決まりました。実家同士も顔なじみで、両家の顔合わせも穏やかに終わり、拍子抜けするほど何も問題がなかったそうです。
「やっと落ち着いたね」
母がそう言ったとき、C子さんも素直に頷きました。式の準備や新居のこと、これからのふたりの暮らし。毎日が前向きな話題であふれていました。
「たまには、ふたりで出かけてみようか。ゆっくり話もしたいし」
母のそのひと言に、C子さんはちょっと驚きました。
いつも忙しそうで、娘に甘えるような人じゃなかったから。
――きっと、寂しいのかもしれない。
そう思ったC子さんは「じゃあ、久しぶりにドライブでもしようよ」と提案しました。女子ふたりの日帰り旅。近くの湖まで、のんびり走ることにしたのです。
母からの誘いだったのに、まったく楽しそうではない様子。車を停めてからはずっと黙ったままでした。
衝撃の告白
車を停めてしばらくたった頃、母がぽつりと口を開きました。
「実はね、誰にも言ってなかったことがあるの」
「えっ、何?」
思わずC子さんは母を見ました。
何を言われるんだろう──怖さと、知りたいという気持ちが入り混じって、胸がざわつきました。
母は手元ばかり見つめていました。
「昔、不倫してたの」
一瞬、頭がついていきませんでした。
ふざけてる? でも、母の表情は真剣でした。
「もうずいぶん昔の話よ。あの頃、いろいろあって……」
理由を語るようでいて、語っていない。曖昧な言葉ばかりが続きました。
「もう終わったことだし、今さらどうこうって話じゃない。でも、あなたが結婚するって決まってから、ずっと気になってて」
なぜ今なのか。どうして今さら?
答えは返ってこないとわかっていても、頭の中は疑問だらけでした。
そして母が言いました。
「相手の名前、言ったら驚くかもしれないけど……」
C子さんが息を呑んだその瞬間、母の口から出た名前に、頭が真っ白になりました。