「ラクになるんだよ」と笑う夫
「体がバキバキでさ、整体に通いはじめたんだ。行くとすごくラクになるんだよ」
夫がそう言い出したのは最近のことでした。
たしかにこのところ忙しく、帰宅するとソファでぐったりしている日が続いていました。疲れているせいか、夫婦の会話も減っていて、何を話してもどこか上の空に見えました。
「整体ってどこに行ってるの? 整体の日はずいぶん遅いけど……」とMさんが聞くと、
「会社から行きやすいところ。人気でさ、深夜までやってて助かるんだよ」と笑って答えました。
週に一度、帰宅が遅くなる日が決まっていて「残業の後にも行けるから、そこそこ遅くなる」という話でした。
整体帰りの夫は機嫌がよく、ごはんも進む。その変化に、私も素直にほっとしていたのです。
ちょっとした会話でも笑い合えるようになりました。
そんな日々が続いて「やっぱり体のメンテナンスって大事なんだね」なんて、夫婦で笑いながら話していたのです。
義妹の“ひと言”
夫は見た目にも変化がありました。表情が明るくなり、肌ツヤも良くなって、笑い合う時間も増えていったのです。
そんなある日、Mさんは義母の様子を見に義実家へ行くと、台所でお茶をいれていた義妹の真理子(仮名)さんがふいに言いました。
「この前ね、久しぶりに由美(仮名)から連絡が来て、“最近、直樹くんと仲良しだよ〜”って言ってたよ」
「え? 仲良しって……どういう意味?」Mさんが問い返すと
「たまたま会ったんだって。職場、近いのかもね」と笑って返されました。
由美といえば、義実家を含め、私たち夫婦の共通の知人。そんなに親しいとは聞いたことがありませんでした。胸の奥に小さな違和感が広がりました。
俺のスマホ
その日は土曜日。「今日は休日出勤」と言って夫はゆっくり支度をしていました。
ラフな服装だけど髪はいつもより念入りにセットしていて
「今日は整体だから遅くなるよ。たまには、そっちも家事さぼってゆっくりして」と言いながら靴を履いていました。
「忘れ物ない?」と声をかけると、
「あっ! 俺のスマホ……カウンターかな?」
「いいよ、取ってくる」そう言って小走りでリビングへ。