そんなモヤモヤも、大人になって振り返ると裏にあった愛情に気づくことがあります。
今回は、筆者の知人A子が語った親への愛情に改めて向き合ったエピソードをご紹介します。
「なんでうちだけ?」と思い続けた子ども時代
A子は、幼いころから厳しいしつけの中で育ちました。あいさつや食事マナー、寝る時間まできっちりルールが決まっています。
友だちがゲームに夢中になる中、自分だけは細かく制限されていて、心の中ではいつも「うらやましい」の連続。
特に思春期には「うちってなんでこんなに厳しいの?」とため息ばかりついていました。
はじめて感じた「ちょっとした自立心」
そんなA子にも、中学の頃に転機が。お手伝いのお礼としてお小遣いを貰えるようになりました。
少しずつ貯めたお金でゲームを買ったときの喜びは格別で、「自分で買った!」という満足感は今でも忘れられないほどです。
今思えばこれも「しつけ」の一環だったのですが、気づくのは、もう少し先のことでした。
どうしても納得できなかった「外泊禁止」のルール
ただ、どうしても腑に落ちなかったのが「外泊NG」という決まり。
高校生になっても友だちの家に泊まることすら許されず、「周りはみんなOKなのに!」と不満が爆発。
ある日、ついに「もうよその家の子になりたい!」と叫んでしまいました。
そのとき母は何も言わずに少し悲しそうな顔を見せただけでした。その沈黙が、かえってA子の心に突き刺さったのです。
時を経て知った、親の愛情
月日は流れ、自分も母となったA子。
子どもを育てる中で、ふと昔のことが胸に引っかかり、ある日そっと母に聞いてみました。
母は、一瞬だけ目を伏せ、静かに語り始めました。
「同僚の娘さんがね、中学生で妊娠して、とても大変な思いをしたって聞いてたの。外泊中の出来事だったらしくて、あなたにはそんな思いをさせたくなかった。」
言葉を選びながら、静かに話す母。その声には、当時の不安や恐れ、そして何より娘を守りたいという思いがにじんでいました。
その瞬間、A子はようやく気づきました。あの頃はただの「厳しさ」にしか見えなかったものが、実は大きな愛情だったのだと。
まっすぐで、不器用だけど深い愛情は、時間をかけてようやく心に届くものなのかもしれません。
「あのとき、よその子に生まれたかったなんて……ひどいこと言ってごめんね」
込み上げるものをこらえきれず、A子はそっと母の手を握りました。
【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。