電車の優先席で、遠慮なく騒ぐ若者たち。周囲が迷惑そうな顔をしても、誰も何も言えない──そんな場面に、筆者の友人・サキ(仮名)さんは出くわしました。けれど、そこへ現れたのは、上品な佇まいの老婦人。たったひと言で空気を変えたその姿に、サキさんは思わず心を奪われたのです。今回はその一部始終をお届けします。

いつもの電車

午前中、サキさんは、いつもの電車に乗り込みました。時差通勤でラッシュの時間を少しずらしたはずなのに、車内は8割ほど埋まっていたそうです。

すぐに目に飛び込んできたのは、優先席の周りで騒ぐ若者たち。通路を挟んで両側に陣取り、足を投げ出し、荷物も好き放題に広げ、大声で笑い合っていました。

見て見ぬふりをする大人たち。眉をひそめながらも、誰も何も言えない──そんな重たい空気が、車内を包み込んでいたのです。

にぎやかすぎる車内

若者たちは、通路を挟んで向かい合い、それぞれ優先席に座ってふざけ合っていました。

大きなお腹を抱えた女性が近づいても、誰も気づかない。いや、気づいていても、あえて無視しているかのようでした。

気まずさとあきらめが入り混じった空気だけが、車内を支配していました。

スカーフのマダム

そこへ、ゆっくりと杖をついた老婦人が現れました。
品のあるハットをかぶり、首元にはセンスの良いスカーフが揺れています。
姿勢もしゃんとしていて、静かな存在感を放っていました。
そのたたずまいは、まさに“マダム”という言葉がぴったりでした。