「買った方が、手間もかからず、文句も出なかったかもね」
……え? 一瞬、胸の奥がざわついた。まさか、夫まで。けれど、すぐ続きが聞こえたのです。
「母さん、来年はデパ地下で好きなお弁当買ってきなよ。楽だし、好きなもん選べるし!」
義母は、まさかの逆転パンチに、しまったと気まずい表情で、黙って箸をすすめていました。
Kさんが横目で夫を見ると、彼はそんなことまるでなかったかのように、息子と並んでおにぎりをほおばっていました。
「あ、俺のタラコだよ」「いいじゃん、ひと口だけ〜」
くだらないやり取りが、やけに愛おしかった。Kさんも、ふっと笑う。
そのとき、普段は寡黙な義父までも、Kさんに向かって微笑みながら声をかけました。
「おいしいね〜、ありがたくいただきますよ!」
微笑みあう家族の輪に、いつの間にか場の空気もふわりと和んでいました。
Kさんは救われた──と思ったのです。
勝負あり!
運動会が終わり、家に帰り着いたKさん。
お弁当箱を片付けていると、夫が笑いながら声をかけてきました。
「今日のお弁当、格別だったな……ずいぶん頑張ったね!」
そのひと言に、Kさんもようやく肩の力が抜けました。
ふとスマホを手に取ると、義母からメッセージが届いていたのです。
『あの唐揚げ、冷めてもおいしかったわ。お父さんがすごく気に入って。作り方、教えてくれる?』
スマホの画面を見た瞬間、思わず声が漏れました。
「えっ! うそ。」
驚きとおかしさが一気にこみ上げて、Kさんは笑ってしまいました。
あの義母が、まさか教えを乞うなんて――。
思い返せば、今日の運動会。
夫のナイスな反撃が、すべてを変えてくれたのです。
Kさんは思わず、にやりと笑い、そっとガッツポーズを決めました。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2024年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。