毎日の献立を考えるのって、案外悩ましいものです。家事に育児に、やることは山積み。そのうえ一日の疲れが出てくる頃には、夕飯の準備まで……と、気持ちに余裕がない日もありますよね。筆者の友人・千佳さん(仮名)は、共働きで、時間に追われていた日々の中で、義母のひとことに胸をチクリと刺されたそうです。そこから始まったのは、ちょっと意外な“家庭内の変化”でした。

今日も何作ろう……

献立を考えるのって、地味だけど毎日のプレッシャーです。
家族の好みや栄養バランス、冷蔵庫の中身を見ながら、今日もまた「どうしよう」と頭を悩ませていました。

「今日も何作ろう」とため息をつく日が続きます。

共働きで、育児にも追われていた千佳さんにとって、冷凍うどんは心強い味方でした。
その日も、夕方にはクタクタ。作る気力はなかったけれど、お鍋ひとつで仕上げて出すと、夫も子どもも「おいしいね」と笑ってくれました。

よかった。今日は、これで充分。そう思った瞬間でした。
そのとき、義母のひと言がふと耳に入ります。

「冷凍うどんなんて、手抜きねぇ」

その言葉に、思わず箸が止まりました。何気ないその一言が、静かに胸に残ったのです。

“冷凍うどん”大作戦

義母の一言に、千佳さんは何も言い返しませんでした。
笑って流そうとはしたけれど、心の中では思っていたそうです。

——あ、今ちょっと地味にムカッときたな。

たしかに冷凍うどんは手軽です。でも、それを“手抜き”って言われたら、なんだか報われない気がしてしまいます。時間も気力も残っていない日でも、千佳さんは、家族の「おいしいね」が聞きたくて、その一杯を選んでいたのです。

言い返すほどのことじゃない。けれど、黙って引き下がるのも面白くない。
「よっしゃ……だったら嫁の意地、見せてやる!」
そう心の中でつぶやいて、ちいさな挑戦を始めました。

カルボナーラ風、韓国風、あさりバターに、定番の焼うどん。
和風、中華、あんかけ、ちゃんぽん風。冷凍うどんの可能性は、想像以上でした。

野菜も海鮮も彩りよく、栄養バランスにも気を配りながら、
千佳さんはいつものキッチンに、ほんの少しの遊び心を添えていったのです。

その一言、勝負あり!

その日のアレンジは、あんかけちゃんぽん風。
白菜や人参、きのこに豚肉とエビ。彩りも栄養もバッチリで、我ながらうまくいったと思えた一皿でした。
食後のお茶を飲んでいたとき、義母がぽつりと尋ねてきました。

「千佳ちゃん、今日のって、冷凍うどん?」

また何か言われるかも、と千佳さんは一瞬身構えました。
けれど、堂々と答えました。

「そうですけど、お口に合いませんでした?」

義母はちょっと笑ってこう続けました。

「このところ毎週のように冷凍うどん、出してるでしょ? 意外とおいしいのね……私にも作り方、教えてほしいのよ」

その瞬間、千佳さんは思わず満面の笑みがこぼれてしまい、心の中では思わず、ガッツポーズを決めました。すると義母は、すかさず立ち上がって一言。

「どこのメーカーのうどんなのかしら」
そうつぶやきながら、冷凍庫をゴソゴソとあさりはじめました。

——よっしゃー!!
嫁の静かな戦略、大成功です。

ここから始まった、人生をちょっと豊かにする時間──

逆にハマってしまったのは、義母のほうでした。あるとき、ぽつりとこんなことを言ったそうです。

「手間かけたのにおいしくなかったら、悲しいのよ。冷凍の方が確実よね……」

それ以来、買い物に出かける前には、
「冷凍うどん、切らしてない?」と聞かれるのが恒例に。

今では義母自慢の冷凍うどんアレンジレシピで、平日のランチに友人を招いて“冷凍うどん女子会”を開いているそうです。
ご婦人方に好評なのは、「梅カツオとろろ昆布うどん」。
ランチの後は、お茶会や手芸に映画鑑賞までがセットになっているようで、何とも楽しそうな午後を過ごしており、すっかりご機嫌な毎日になりました。

そしてある日、義母がこう言ったのです。

「今日は私が夕飯の支度しとくから、千佳ちゃん、心配しないで仕事頑張ってきて!」

冷凍うどんが教えてくれたのは、家族の距離のちぢめ方と、人生をちょっと豊かにするヒント。
それはもう、立派な“戦略的”嫁スキルと言っていいかもしれませんね。

【体験者:40代・会社員、回答時期:2024年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。