子どもの習い事って、どんなものをやらせたらいいのか、迷いますよね。「やってみたい」という気持ちを応援したい。でも、その話を笑われたり否定されたりすると、なんとも言えずモヤモヤしてしまうもの。今回は、筆者の知人A子さんが、子どもの習い事をきっかけに、ママ友との間でちょっと意外な展開を迎えたエピソードです。

はじめての習い事

小学校入学を控えたある日、娘のここちゃん(仮名)が「英語を習ってみたい」と言い出しました。
A子さんは、「いいじゃない!」とすぐに背中を押しました。子どもの「やってみたい」という気持ちは、できる限り応援してあげたい。そう思って、近くの英会話教室に体験申し込みをしたのでした。

レッスン初日、ここちゃんは目をキラキラさせながらA子さんのもとへもどってきました。

「アイムココ! って言うんだよ!」

そんな弾む声で話す姿を見て、A子さんは心の中でつぶやいたのです。
「これなら、頑張れそうだな。通わせてよかった」

口を開けば、否定

数日後、公園で会ったママ友との会話で、英会話のことを何気なく話しました。
すると、「へぇ〜、英語ね」と一言。次に返ってきたのは、「でもさ、習い事なんて無駄じゃない?」という言葉でした。さらに「親の自己満足でしょ?」と、笑い混じりに鼻で笑われたのです。

——まあ、いつものこと。このママ友は、何かと否定から入るタイプなのです。

このママ友とは、子ども同士が同じ園に通っていたころからのつき合いで、何かと意見が強い人でした。話しているうちに、さりげなく他人をジャッジしたり、
「そんなのやらせたって、頭が良くなきゃ無駄じゃない?」とズバリ言い放ったりします。
さらに、「そんなに色々やらせてもお金の無駄よ」とか、「そんなのただの気まぐれじゃない。習い事しても無駄よ……」と、チクリと刺すような言い回しで否定するのです。

A子さんはこれまで、適当に聞き流してきました。

でも今回は、少し違いました。ここちゃんが「やってみたい」と言った習い事で、毎週うれしそうに通っている姿を知っていたからです。
家でも楽しそうに発音を練習している。そんなここちゃんの姿を思い浮かべると、まるで娘を笑われたような気がして、A子さんの胸の奥にじわっとモヤモヤが広がりました。

どうして、あの人はあんなふうに言うのでしょう。
そう思っても、言い返すことはできませんでした。A子さんは小さく笑って、その場をやりすごしたのです。

申し込みは、あなたのほうですか!

しばらくして、A子さんがいつものように教室前でここちゃんが出てくるのを待っていると、向こうから見覚えのある親子が歩いてくるのが見えました。あのママ友でした。

「あらー! こんにちは、もしかしてユイちゃん(仮名)も?」
思わず声をかけると、ママ友はまるで“見つかってしまった”かのように、バツが悪そうな苦笑いを浮かべました。

「そっ、そうなの。うちのユイも“ここちゃんと同じのやりたい”って言い出してさ。仕方なく体験に付き添ってみたんだけど……」

そのときでした。
「ハーイ!」
教室のドアが開き、現れたのはその日の担当の先生。まるでモデルのようなイケメンの先生でした。先生を見た瞬間、ママ友の目がキラッと光り、完全にロックオン!
A子さんにもすぐにわかりました。

体験レッスンが始まり、ユイちゃんが教室で頑張っているあいだも、ママ友はそわそわと落ち着かない様子。やがてそっと席を立ち、教室を抜け出して受付のほうへ向かっていきました。

A子さんは、てっきりユイちゃんの申し込みをしに行ったのだと思っていました。

ところが。
受付のあたりから聞こえてきたのは、ママ友の弾むような声でした。

「うちも英語やろうかな。大人のレッスンもできますか?」

そう言いながら、うれしそうに申込用紙を受け取っているママ友の後ろ姿に、A子さんは思わず目を丸くしました。

あれだけ「習い事なんて無駄」と言い切っていたのに――。
まさか、申し込んでいるのがユイちゃんのレッスンではなく、ママ友本人のだったとは。

A子さんは、心の中でツッコまずにはいられませんでした。

チャレンジの理由

その話を聞いた私は、思わずふきだしてしまいました。
でも、あとからじわじわきたんです。全否定していた人でも、気持ちが動く瞬間ってあるんだな、と。

子どもの“やってみたい”を応援したA子さんの気持ちも、そしてイケメン先生がきっかけだったとはいえ、あのママ友なりに一歩踏み出そうとしていることも。
ちょっと笑えるけれど、それも立派なチャレンジかもしれないなって。

「案外、きっかけはどんなものでもいいよね……」
私は心の中でそう思いながら、A子さんの話に耳を傾けていました。

【体験者:40代・専業主婦、回答時期:2024年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。