素敵な婚約者
息子が結婚すると聞いたとき、正直なところ、うれしさと同時に少しの不安もありました。どんな女性なのか、うまくやっていけるのか……母親としては気になってしまうものです。
初めて会った婚約者は、今どきのおしゃれな女性でした。
第一印象は「しっかりした子」という感じで、少し気が強そうにも見えましたが、笑顔で丁寧に挨拶してくれて、安心したのを覚えています。
料理はあまり得意ではないと聞いたので、お節介かもしれないと思いつつも、「よかったら、うちでよく作ってたレシピを送ろうか?」と声をかけました。
思い出のレシピ
息子が子どもの頃から好きだった肉じゃがや、祖母の代から受け継いできた煮物のレシピ。
どれも我が家の食卓を支えてきた思い出の味です。それを丁寧に手書きし、心を込めて送りました。
もちろん強要するつもりはありませんでしたが、「もしこれが家族の味になってくれたら」と、どこかうれしい気持ちで返事を待っている自分もいました。
SNSには衝撃の言葉が──!
数日後、何気なくSNSを見ていたときのこと。
偶然、私が送ったレシピの写真とともに「義母からきた昭和レシピ(笑)」というコメントが目に入り、驚いてしまいました。
詳しく見てみると、婚約者のアカウントだということが分かりました。
さらにその投稿には、「今どき砂糖入れすぎじゃない?」「見ただけで血糖値上がる」などのコメントが寄せられています。
あの日、彼女は「ありがとうございます!」と笑顔で言ってくれたはず。でも、心の中ではこんなふうに思っていたのかと思うと、胸が痛みました。
好意のつもりでしたことが、こんな形で笑いものにされるなんて……。
心の距離は埋まらず
息子には言えず、今もその出来事は胸の奥にしまったままです。
婚約者は変わらず愛想よく接してきますが、私のほうは心を開けなくなってしまいました。
レシピが不要なら、使わずに捨ててくれても良かったのです。不特定多数の人に拡散して馬鹿にされたのが、どうしても許せませんでした。
たとえ我が子が選んだ相手でも、家族になるって大変ですね。
本当の意味で「心が通う」というのは、思っていたよりずっと難しいことなのかもしれません。
【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2025年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。