瞬間、夫の箸がピタリと止まりました。ほんの一拍の沈黙のあと、落ち着いた声で、でも確かな怒りを込めてこう言ったのです。
「それ、ここで言って得すると思ってる? そんな可愛げのないことばかり言ってる人に、Nちゃんの知り合いのイケメンドクターたちは誰も紹介できないよ!」
その場の空気が、一瞬で凍りつきました。
義妹は婚活中なので、夫がそのような言い方をしたのでしょう。義妹は顔を真っ赤にして、黙りこみました。視線を落としたまま、口を開くことはありませんでした。
その様子を見ながら、義母はゆっくりと深いため息をひとつ。
そして、すかさず追い打ちをかけるように、ため息まじりでこうつぶやきました。
「そんなこと言ってるからダメなのよ」
Nさんは驚きました。夫と義母がその場で声を上げたのは、これが初めて。
守られた——そんな感覚が、不意に胸に押し寄せてきました。
……こんなふうに、守られたかったんだ。ふと、胸の奥でそう思いました。
渾身の一撃
あの食卓以来、義妹はしばらくおとなしくなったそうです。けれど数日後、義母に「お兄ちゃんが怖くて喋れない」と愚痴をこぼしていたことを、Nさんはあとから聞きました。
そしてさらに数週間後、Nさん・義母・義妹の3人でランチをする機会が訪れました。少しぎこちない空気の中で食事が進むなか、義妹がまた口を開きます。
「お兄ちゃん、Nちゃんと結婚してから性格変わっちゃったよね」
どこかすねたような、投げやりな声。
またか、とNさんは内心ため息をつきそうになりました。けれどそのとき、先に深いため息をついたのは義母の方でした。
義母は、ゆっくりとナイフとフォークを置きながら、まっすぐ義妹を見つめ、ため息まじりにつぶやきました。
「おやめなさい! あなたね……幸せになりたいなら、その毒のある口を見直しなさい」
義母の声は静かでしたが、その中には確かな怒りがにじんでいました。
そのあと、少し間をおいて、義母はさらにひと言を重ねます。
「この前の出来事、反省したんじゃなかったの?」
Nさんは、てっきり先日の家族での食事会のことだと思って、心の中で「そうそう!」とうなずいていました。
けれど、義母が続けたひと言は、Nさんの想像とはまったく違うものでした。
「あの婚活イベントがうまくいかなかった理由、もう忘れたの?」
その場の空気が、一瞬で凍りつきました。
その瞬間、義妹は顔を真っ赤にして、何も言えずにうつむきました。
どうやら義妹は、婚活イベントに参加するもうまくいっていない様子。
Nさんは、思わず紅茶を吹き出しそうになり「お義母さん、そこまで言っちゃう!?」──心の中でそう突っ込みそうになるほどの衝撃でした。
お義母さんの“渾身の一撃”は、まさに強烈でした。
【体験者:40代・医師、回答時期:2023年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。