「彼女ができた」と息子に告げられた瞬間、筆者の知人ノリコさん(仮名)は、社会人1年目を迎えた息子の成長を心から喜んだ。けれど、恋に浮かれた息子の口から語られる彼女の話を聞くうちに、「あれ……なんか変かも?」と小さな違和感が芽生え始める。やがてその直感は確信となり、ノリコさんはある“作戦”を決行することに——。

しばらくして、太郎くんの話に少しずつ変化が出てきました。

「“日曜にずっといられた記念日”なんだって。今度、旅行に連れてってほしいって」
「初めて一緒にランチ作ったから、“一緒に料理記念日”のごほうびにプレゼント欲しいって言われた」
「もっと可愛くなりたいって。鼻を高くしたくて、“ビジュアップ記念”のごほうびとして整形代を少し出してほしいって。じゅうぶん可愛いのにね」

どの話も、太郎くんは楽しそうに語っていました。
けれどノリコさんは、そこでハッと気づいたのです。

これ、もう“可愛いお願い”なんかじゃない。

出てくるのは、彼女からの“おねだり”ばかり。
しかも息子は、それを当たり前みたいに受け取っている。
まるで、何も見えていないように感じました。

——これは、ただの“恋の浮かれ”じゃ済まないかもしれない。
そのとき、ノリコさんの中で“女の勘センサー”がピコンと反応しました。

作戦決行! 母はなりきり大女優

息子の話を聞き続けるうちに、ノリコさんの中で確信が固まりました。
これは言っても響かない。ノリコさんは、ある“作戦”を思いつきました。

ある日の夕食時。太郎くんの目の前で、ノリコさんは夫に向かって芝居を始めました。
「ねぇねぇ、せっかくだから旅行行こうよん……連れてってえ」
「あっ、今日も献立考えた記念日だから、ごほうびにプレゼントお願い!」
「ねぇ、鼻のここをツンってしたらもっと可愛くなると思わない? 整形したいな〜、ちょっとお金出して」

夫は箸を止め、「はあ?! 頭おかしくなったのか」と本気で仰天。
太郎くんは青ざめながら、「ちょ、やめて、マジでキモい」と顔をしかめました。

その瞬間、ノリコさんは静かに言いました。
「太郎! 何かおかしいと思わない? 彼女のこと、他の友達に聞いてみたことある?」
「今のね、太郎の彼女のマネよ! 完コピしてみたの」

母さん、やっぱすごいかも──

その晩、ノリコさんは夫に「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」とたしなめられ、太郎くんには無視されました。
家の中にはしばらく、重たい空気が漂っていました。

そして数日後、太郎くんがぽつり。
「……彼女と別れちゃったよ」
「えっ、そうなの、何でよ?」と聞き返すと、
「母さんって、やっぱすごいかも。あの子、ちょっと依存体質な子だったみたい」

彼女について共通の友人にそれとなく聞いてみたところ、過去に何人かの友人からお金を借りていたとか、男の子とのトラブルもあったらしい。
恋は盲目。でも——
母の勘って、不思議と当たるんですよね。

【体験者:50代・パート従業員、回答時期:2024 年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。