でも、息子は言葉を止めませんでした。空気がゆるみかけたそのタイミングで、さらに追い打ちをかけるように、きっぱりとこう言ったのです。
「ねぇ、ばあば。知らないの? 出されたものは感謝して、“おいしいね”って食べなきゃダメなんだよ」
誰もが気まずさを感じていたその場で、まさかの直球。しかも、義母にとっては可愛い孫です。
それを聞いた夫が、なぜか一番焦った様子で「お、おう……」と変な相づち。でも顔はもう限界で、次の瞬間「ぷっ」と噴き出してしまいました。
それを合図に、大人たちの笑い声が一気に広がっていったのです。義母は何も言えず、苦笑いのままそっと箸を動かしていました。
あの日、“応援弁当”に込めたもの
さやかさんはその光景を見ながら、よくぞ言ってくれたと胸の中で拍手しながら、
「この子、ほんとイイ男に育ってるな」と、心から思ったそうです。
味も、見た目も、正しさも、人によって感じ方は違うもの。
でも、息子のひと言が教えてくれました。
いちばん大事なのは、そこに込めた“気持ち”なんだということ。
義母にとっては、少し耳の痛いセリフだったかもしれません。
けれどそのあと、孫に向かって「おいしいね」とつぶやく声が聞こえたといいます。
その言葉が、さやかさんには、自分に向けられたもののようにも思えて――胸の奥がふっと軽くなった気がしたそうです。
あの日の茶色いお弁当は、息子にとっての“ごほうび”。
そしてさやかさんにとっては、リクエストをぎゅっと詰め込んだ“応援弁当”に込めた愛情が、ちゃんと届いていた――そんなふうに思えた一日だったのです。
【体験者:30代・会社員女性、回答時期:2024年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。